医師の英断に「お願いします」
ところがである。診察室に入ると、温厚そうな先生が座っている。「全体的に小顔にしたいのですが、お安い方法はないでしょうか」と、ぼんやりしたことを述べると、「フェイスラインが気になっているんですね、今はこんな治療法がありまして、仕組みはこうで......」と、じっくりカウンセリングしてくれる。穏やかで声も落ち着いており、この先生に任せれば小顔になれるのでは、と希望がわいてきた。聞けば、施術は15分ほどで終わるという。
モニターに映し出された費用は、税込みで70万円近くにもなった。「よ、予算がありますので......」とうじうじしていると、「ここは内緒で、30万円にしましょうか。美肌注射も無料でお付けします」と、先生は再び、優しそうな声でささやくではないか。
70万円が、30万円。しかも、試してみたかった注射までついてくる。つい数分前に、300円をケチったことは頭のどこかへ消え去っていた。先生の英断が清清しい。「お願いします!」と、その場で、小顔になるプチ整形を受けた私である。いやあ、お得であった。
さて請求額は、30万300円(再発行手数料込み)であった。「カード一括で」と笑顔で会計を済ませたものの、端数の300円が妙にむなしかった私である。いったい、どんな基準で人は「損した」とか「得した」とか判断しているのだろうか。(北条かや)