「カネのためだ」告白に唖然 理念なき起業に失うもの大きく

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ダメ起業の典型と分かり

   起業を成り立たせるには、最低でも「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の3要素を満たすことが必要です。失敗するケースの多くはこれを外しています。H氏の場合も「やりたいこと」「やれること」は満たしていたのですが、「やるべきこと」に「?」が付きました。「やるべきこと」とは、言い換えれば、多くの人から黙っていても求められる商品やサービスを提供する事業であるか否かです。黙っていても求められるなら、買う買わないは価格次第になるからです。

   しかし、H氏の手がけるアイデア・ファッショングッズが多くの人から黙っていても求められるかといえば、いささか疑問です。マーケットが小さいと言わざるを得ないのです。サラリーマン時代に彼の企画やアイデアが受け入れられたのは、大手企業向けの提案だったからではないでしょうか。資本力のある大手メーカーが、ついで的に狙う市場ではあっても、H氏のような零細企業が本業で飛び込んでいくにはリスクが大きすぎる、私はそう感じました。

   そんな話をしつつビジネスの方向転換を促そうと思った矢先、H氏が奥さんの言葉にかちんときて、いきなり強い口調で反論しました。

「お前はビジネスのことなんか、少しも分かっていない。僕が売りたいのは商品じゃないんだ。そんなセコい商売をするために起業したんじゃない。ブランド価値を高めてビジネスモデルを大手や資本家に売るんだよ。大きなカネを手にするために起業したんだ。目的はビジネスモデルで儲けることなんだ。今に大きなカネになる。いいから黙って見てろ」

   奥さんは無言で睨み返していましたが、唖然としたのは私でした。ダメ起業の典型であることが自身の言葉で明白になったからです。彼が取るべき態度は、方向転換などという甘いものではなく、起業そのもののゼロクリアであると確信しました。

   自分が興したビジネスを「セコい商売」と呼び、「大きなカネを手にするために起業した」と動機をカミングアウトしました。これは完全アウトです。先に挙げた3要素以前に、起業に一番必要なものはその社会的意義です。誰のために、どのように役立ちたいか。端的に言えば、「企業理念」です。

   カネ儲け目的の起業で成功しているかに見える人も確かにいますが、それは例外中の例外。社会的意義のない起業はどこかで行き詰まり、取引先、消費者、社員......、必ず人が離れていくことになるのです。

   H氏の起業はまさしくそれなのです。

   この場でそんな話をしてもアタマに血が上ったH氏は聞く耳を持たないだろうと思い、私はとりあえず条件をつけました。期限を切って検証をしようと。まずは半年。この先半年で今の状況が変わらないなら、抜本策を含め事業を見直すことを奥さんの前で約束させました。

   私としては、その間にも指導はしていくつもりですが、彼の心構えに変化が現れないなら、家庭崩壊させないためにもサラリーマンに戻るよう勧める以外にないと思っています。安易な起業は失うものが大きいのです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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