部下の長所はなかなか見えない それを見つけるのが上司の仕事(江上剛)

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「部下を叱れません。ほめることは、まあできるのですが。どうもなめられているようです」

   この悩みは多いね。主な原因は上司たるもの部下を叱れなければならないと思っているからだ。ところがちょっと叱ると、すぐにパワハラだとかなんとか言われるんじゃないかと心配になってしまう。

  • げんこつで部下を育てる時代ではない
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叱られて嬉しいだろうか

   でも考えてみてほしい。叱られて嬉しいだろうか。子どもだって父親や母親に叱られ続けると、やがて嘘をついたり、ごまかしたりするようになる。

   私なんか、叱られるよりほめてもらうほうが俄然やる気が出るタイプだった。

   有名な第二次世界大戦中の連合艦隊司令長官山本五十六元帥も次のように言っている。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

   山本五十六は、ほめて人を育てることを推奨している。叱るなんて一言も言っていない。ほめてこそ人は育つのだ。

   私も経験があるけど、他人の短所はよく見えるけど、長所はなかなか見えないものなんだね。

まず自分に自信を持て

   人事部にいたとき、はたと悟ったことがある。それは「人を使うためには長所を見つけなければならない。ほめるところを見つけなければならない」ということ。

   というのは、人事部には現場の支店長から「部下のAは使い物にならないから交代させてくれ」などという理不尽な要求が次々と寄せられる。そんな要望にいちいち応えられるはずがない。部下に対して無能と烙印を押すのは簡単だが、必ずどこか別の部署で使わなくてはならないのだから。それ以来、部下の長所を見つけることが上司の役割だと思うようになった。

   もう一度山本五十六の言葉を読んでほしい。彼は、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」と言っている。まずは自分が実践してみてから「ほめてやらねば」ならないのだ。あなたはほめることはできると言っているが、実は、本当の意味でほめることができていないのではないだろうか。自分が見本を見せなさいよ。

   そして山本五十六は、部下の話に耳を傾け、任せてやりなさいとも言っている。任せるって、よほど自信がないとできないよね。あなたは、まず自分に自信を持ちなさい。仕事に対する姿勢が中途半端だから、ほめることもできないし、叱ることもできないんじゃないかな。だから部下になめられているような気になるんだろうね。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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