栗山監督にリーダーの範を求める 何が選手を日本一に導いたのか

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   25年ぶりセ・リーグ優勝を果たした広島東洋カープと、「二刀流」大谷選手を擁して大逆転でパ・リーグを制覇した北海道日本ハムファイターズの対戦となった日本シリーズは、毎試合日本全国を沸かせ、ファイターズが2連敗から4連勝で劇的勝利を収めました。シリーズ終了後多くのメディアが勝因分析を綴る中で、栗山監督のチーム・マネジメントがクローズアップされ、企業経営の観点からも大変興味深く読ませてもらっています。

  • 選手の心を癒すコミュニケーション力とは
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注目はコミュニケーション力

   それらの記事を総合してみると、栗山監督の優れた指導性は、「的確で臨機応変な采配」「若手を育てる力」「選手を惹きつけるコミュニケーション力」の3点に集約されると感じます。

   中でも一段と大きく取り上げられているのは、「的確で臨機応変な采配」です。広島カープ緒方監督が「勝利の方程式」と称された中継ぎ投手起用パターンにこだわりすぎたのを引き合いに出して、栗山采配の臨機応変さを語っている記事も多くありました。ただし、采配はある意味時の運でもあります。栗山采配については、やや過大に評価されているようにも感じます。

   むしろ、私が注目しているのは、3番目に挙げた栗山監督の「選手を惹きつけるコミュニケーション力」です。その高い能力を示す数多くのエピソードの中に、私が特に引きつけられたものがあったので紹介します。

主砲の気持ちを前に向かせる

   主砲中田選手がシーズン途中で極度の打撃不振に陥った時のこと。チームがサヨナラ勝ちしたゲームで、ノーヒットの中田選手は、グラウンドで繰り広げられるチームメートの歓喜の輪に加わることなく、早々に一人球場を後にしたそうです。栗山監督はその姿を見逃さず、翌日の試合前、中田選手を監督室に呼びました。呼ばれた中田選手も、極度の不振でチームに迷惑をかけている状況を潔しとせず、監督に叱責されたら自分から二軍行きを申し出ようと心に決めていたのだといいます。

   しかし監督の話は予想外のものでした。

「もう一回がんばろう。翔で勝負してダメだったら納得できる。一からやろう」

   前日の「早退」を咎めるわけでなく、「四番として恥ずかしくないか」でなく、「先発を外す」「二軍へ行け」でもなく、「お前でダメなら納得」。これ以上の信頼感、期待感を伝えてくれる言葉はなかったと、中田選手は述懐しています。その後スランプを脱し優勝に大きく貢献した中田選手。主砲の折れそうな気持ちをしっかりとつかまえ前に向かせたのは、栗山監督の卓抜したコミュニケーション力だったのです。

   同じような経験は、今季パ・リーグのホームラン王を獲得したレアード選手にもありました。来日1年目の昨年、開幕からシーズン半ばまで日本人投手への対応に苦労し打率が低迷を続けていた時、レアード選手も監督室に呼ばれたといいます。二軍行きか? 事によっては解雇・帰国か? 首を洗って監督と相対し、告げられた言葉は、

「君のプレーをビデオで入念に見て、絶対に活躍できると確信して日本に呼んだ。僕は必ずやれると思っている。だからこれからも使い続けるのでよろしく頼む」

だったといいます。

   今季活躍できたのも、この時の監督の言葉があったからだとレアード選手は話しています。優勝談話では、「栗山監督への感謝しかない。栗山監督をナンバーワンにしたい、その一心でがんばってきた」と。日本シリーズでMVPを獲得した外国人選手の大活躍もまた、栗山監督のコミュニケーション力によって引き出されたのです。感性に違いもあるだろう外国人の魂すら奮い立たせるその力量には、ただ驚かされるばかりです。

底にある「期待の継続」

   監督のコミュニケーションの底にあるのは、「ピグマリオン効果」と呼ばれるものに他なりません。ピグマリオン効果は、心理学者のローゼンソールによって証明されたもので、人がある特定の人にずっと期待を寄せているとその人は期待に沿うようになる、というものです。継続は力。期待を実らせるためは期待を継続する以外にないのです。教員免許を持つ球界の変わり種は、それを知っていたのかもしれません。

   ある管理者研修機関は、「部下と毎週まとまって話す時間を設けている上司とそうでない上司との間には組織活性度に大きな差はないが、部下が『自分のために時間を取ってくれている』と感じる上司とそうでない上司の間には組織活性度に大きな差が生じる」という調査報告を公表しています。

   上司と部下のコミュニケーションは、確かに量の確保も大切なのですが、「上司が自分のために時間を取ってくれている」と部下が感じているかどうかがカギなのです。そこが理解されていなければ、上下コミュ二ケーションを組織の活性化につなげることができません。

   ちなみに同調査にある、部下が「自分のために時間を取ってくれた」と実感するリーダー行動とは、

   「部下と定期的に話している」
   「部下に期待する役割を伝えている」
   「部下の成功や成長を支援している」
   「部下の価値観を理解している」
   「部下をやる気にさせる提案や要望をしている」
   「話しやすい・相談しやすい雰囲気である」

だそうです。

   栗山監督にこうした行動がほぼ全部備わっていると実感させられるにつけ、ネットなどで今盛んに紹介されている栗山流コミュニケーション術を、経営者にもぜひ手本として参考にしていただきたいと思うところです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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