日本経済新聞の「そこが知りたい」(2016年7月10日付)に登場した、富士フイルムホールディングス(HD)の古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)のインタビューを読んだ。
そこでは、「これまで利益の3分の2を稼いでいた写真フイルム事業がどんどん減り、本業を失った」ことや、「2003年ごろから構造改革を進めてリストラにも取り組まざるを得なかった」事情、「新規事業や経営の多角化に取り組んできた」ことが語られていた。
事業入れ替えがうまくいった代表格
世界の電機・精密機械メーカーが事業の入れ替えを急いでいるなか、富士フイルムHDが化粧品や再生医療の新規事業に大転換していることは、よく知られるところ。化粧品「アスタリフト」のテレビCMで、当初は「富士フイルム」の文字に違和感を覚えた人も少なくなかったと思うが、最近ではすっかり定着。事業の入れ替えがうまくいった企業の代表格といっていいかもしれない。
記事で、古森会長は、「再生医療で2018年には少なくとも200億円くらいの売上高になるはず」と意欲を語っている。
それを裏付けるように、2016年6月1日には子会社のジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J‐TEC)の黒字化に向けて、経営体制を刷新している。また、7月22日付の日本経済新聞は、「武田子会社を買収へ」、さらに同10月14日付は「中国医薬品に110億円出資」(出資比率は1%)と、矢継ぎ早に手を打っていることを報じた。富士フイルムHDが医療分野への戦略転換を一段と加速していることがわかる。
富士フイルムHD株は、2014年12月16日に3585円で100株購入したのが最初。その1か月半後の15年1月29日に3981円で100株すべてを売却して、3万9600円の売却益を得た。同時に、子会社で再生医療事業を手がけるJ‐TEC株を1455円で100株購入。現在600株保有している。
売却した理由は、その時点でどこまで上がるか先が読めなかったことと、富士フイルムHDの再生医療への本気度、医療での収益見込みが見通せなかったことがある。
ただ、再生医療が成長株であることは確かなはず。そこで子会社のJ‐TEC株を買った。会社四季報(2016年9月発売)によると、J‐TECの時価総額は482億円と、富士フイルムHD(1兆9777億円)の2.4%。企業規模が小さく、業績の良し悪しを富士フイルムHDの株価よりも敏感に反映すると思ったからだ。
「親子上場」のJ‐TEC内包化も?
一方、ここ数年の富士フイルムHD株の推移をみると、2012年12月3日の始値1514円を起点にした場合、2014年11月17日にこの時の高値4099円50銭を付けている。その後、翌15年8月17日に5293円の年初来高値を付けた。この時は7月末発表の15年4~6月期の好決算と、1000億円と積極的な自社株買いが買いを誘ったようだ。
ところが、2016年7月28日には3647円と年初来安値をつけた。米国への複合機(コピー機、プリンター、スキャナなどの機能が一台にまとめられた機器)の供給が減っていることで16年4~6月の営業利益が24%減ったため、と報じられていた。
とはいえ、16年10月1日付の日本経済新聞には、J‐TECが 2017年3月期に初の営業黒字が見込まれ、さらには富士フイルムHDが15年に買収したiPS細胞供給の世界的な大手で米ベンチャーのセルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)の収益も改善する見通しで、「19年3月期には再生医療事業全体で黒字に転換しそうだ」とあった。
富士フイルムHDの再生医療分野を含むヘルスケア関連事業の2017年3月期連結売上高は、4400億円の見通し。売上高の構成比は現在、複合機関連が47%、ヘルスケア関連は17%だが、再生医療を主力の複合機などに次ぐ新たな成長分野と位置づけたのは好感できる。
J‐TECの事業が軌道に乗れば、現在「親子上場」している同社を、さらに内包化する可能性もあるかもしれない。
富士フイルムHD株は、当面の高値の目安として5075円(16年1月4日に付けた年初来高値)が見えてきた。世界情勢の混乱により大きく下押しすることがあれば、3600円を割ったあたり(前回の買値3585円)が、買いどきではないかと考えている。(石井治彦)