担当者教育でときどき会議運営の研修を担当させていただいています。主に営業分野が専門である私が会議研修もお引き受けする理由は、営業も会議も、突き詰めるとコミュニケーションの活性化という改善策に行き着くからなのです。
いずこも同じ悩みを抱える
先日も、経営者を除いた各階層約30人を集めた会議運営研修で講師を務めました。出席の皆さんに重要会議運営の実態を聞いてみると、実にお悩みが深く、次のような傾向に多くの参加者が同意されました。
「議題に関する担当部以外からの意見が出ない」
「会議という名の報告会に終止する」
「どうでもいい話でばかり盛り上がる」
「毎度社長の演説会に陥る」
こうした担当者たちのお悩みは、私が現場で見てきた多くの会社の会議実態ともほぼ100%符合します。実際の会議運営に立ち会い、様々な形でその参加者の意見を聞いてきた経験から、私なりに考えた原因は以下のようなものです。
・「意見が出ない」のは専門外の分野に意見して見当違いだった時を想定し、周囲の目を気にするから
・「報告会に終止する」のは、自分の実績アピールをして、周囲にきちんと仕事していることを示し、並びに社長に評価してもらいたいと思うから
・「どうでもいい話ばかりで盛り上がる」のは、自分の評価に直結しないだろう話題には安心して積極的に加われるから
・「社長の演説会」を止められないのは、社長の叱責と、自分の評価への影響を恐れるから
会議の時間は支出額に反比例する
端的に申し上げると、会議出席者は全員、社長を筆頭とする周囲の目を気にするあまり、報告を含め自分が意見を言いやすい場面でしか意見を言わず、結果として議論すべき重要なテーマに対する意見交換は不十分に終わっている、ということです。
実はこの現象、古くから「パーキンソンの凡俗法則」として知られている組織障害のひとつなのです。
この法則を簡単に説明する際に使われる事例に、次のようなものがあります。ある会議で、原子炉建設に関する議題と自転車置き場についての議題の2つが出された際、より専門的な知識を要する原子炉建設は、ほとんど意見が出されることなく可決され、一方の自転車置き場の件は、参加者から様々な意見が出され、結論が次回に持ち越された――。
自分がよく知らないことについては、たとえそれが自分にとって重要な議題であっても、恥をかきたくない、評価を下げたくないという気持ちから発言を控える傾向があり、一方、議論しやすいテーマ、自分の意見を言いやすい話題については積極的に発言する傾向がある、というのです。パーキンソンは、この現象を「一議題の審議に要する時間は、その議題に関する支出の額に反比例する」と表現し、「凡俗法則」と名づけました。
すなわち、会議参加者は恥をかきたくないから、「議題に関する担当部以外からの意見が出ない」「どうでもいい話でばかり盛り上がる」という現象が起き、結果的に報告と社長の演説に終始する会議になってしまうのです。
では意見が出ない会議はどうしたらいいのでしょうか。経営者から直接ご相談をいただくケースも非常に多いのですが、一番簡単な方法としていつも私が申し上げているのは次のような具体策です。
それは「組織の病」の自覚症状
「意見を出させる会議は、フランクに話せる4人ぐらいのグループ会議を分科会的に実施して、そこに社長は出席しないことです。分科会で出された意見を全体会議で集約することにすれば、意見はいくらでも出るようになります」
さらに社長に対してもう一言。
「議論を目的とする会議は、社長への報告会でもご自身の演説会でもありません。社長といえども一参加者として他の参加者と同じ立場であることを十分ご認識いただき、『会議を使って説教するなどエラそうにしない』『参加者のどんな発言も人事評価の対象としない』ことを席上で宣言してください」
これを実行するだけで、会議は大きく変わります。
「会議は組織風土を体現する」が、長年様々な組織を見てきた私の実感です。会議運営のお悩みは、実は「組織の病」の自覚症状なのです。
独断専行リスクを感じさせる、行き過ぎたワンマン体質の変革、高齢経営者の次世代へのスムーズなバトンタッチも、まずは社内のフォーマルコミュニケーションである会議改革から手を着けることが重要なのです。会議運営上の問題を決して甘く見ることなく、最優先で取り組んでいただきたいと思います。(大関暁夫)