「何でも売れるんです。薬とか」
福岡から出てきて、学費のためにスカウトをしているというある男性(21歳)は取材中、こんなことを言っていた。
「この女子大生、この前うちの紹介でヘルスに入ったんですけど、2週間で100万稼いだんです。風俗未経験なんで最初からヘルスは無理かと思いましたけど、やっぱりお金がもらえるのは大きいみたいで続けてくれています。本当にすごい世界ですよ」......話を聞いていると、確かにめまいがしそうなほど「儲かる話」のオンパレードだ。彼らはさも「簡単にお金が稼げる世界」にいる風をよそおう。
「歌舞伎町ってほんとに、儲かる話があふれているなって思いますよ。スカウトもそうですけど、何でも売れるんです。薬とか」「......えっ、薬って大麻とかそういうものですか?」思わず身構えると、彼は笑って「いや、普通に精神科で処方される抗不安薬ですよ」という。なぜそんなものまで売れるのか。
「歌舞伎町には病んでる人がいっぱいいますから」「メンタルが苦しい人は精神科に行って薬をもらうほうが安いし、安心なんじゃないですか?」「たぶんそういうのが面倒臭いんですよ。だからスカウトから買ったり......いや、僕は売ってないですけど、儲かるから手を出す奴はいっぱいいますね」
さみしそうに笑って見せた彼の表情もまた、歌舞伎町で儲ける人ならではの演技かもしれない。誰かがモノやヒトを売ることがサービスで、そのサービスに群がる人たちがいる。そんな猥雑さに満ちた歌舞伎町が、変に魅力的にうつるのはなぜだろうか。その「魅力」に取り込まれないようにしながら、今日も取材を続けている。(北条かや)