「営業」配転に踊らぬ元技術職 苦心の命名作戦で活路見えるか

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企業家の思い託す職名が

   それは、「先進国で通用するブランドを途上国でつくる」というコンセプトのもと、バングラデシュでバッグなどを企画・製造し、日本で販売しているという女性起業家の話です。彼女は直営ショップの販売員を「ストーリーテラー」と呼びます。ストーリーテラーに、来店するお客様に製品が生まれるまでの「物語」を語らせ、自社の商品に他店とは異なる付加価値を与える役目を担わせました。この職名により販売員スタッフは、格段のモチベーション向上が図れたというのです。

   私は「これだ!」と思い、H社長にこの話をしてみました。

   しかし社長の反応は、

「単に物を売るだけじゃない役割を担わせ、独自の命名をしたことの効用は分かります。ただうちの場合は、たとえ名称を変えても所詮営業は営業であり、やることが変わるわけではないですから」

と、すこぶる否定的なものでした。私は少しカチンと来て、「社長、全然理解が甘いですよ!」と語気を強めました。

「この話で一番重要なのは、単に職名を変えたことではなく、社長の思いを『ストーリーテラー』への変更に託してスタッフに強く訴えたことではないでしょうか。すなわち、社長がスタッフに何をしてほしいか、どのような気持ちで仕事に取り組んでほしいか、その意図をちゃんと伝えたことです。仕事に関するネガティブな先入観を排除し、社長の思いがにじむ名称変更ができたからこそ効果があったのだと思うのです」

   女性起業家がスタッフに託したのは、自社製品が発展途上国の人たちにより一つひとつ愛情を込めて作られたものであることをしっかりと伝えたい、買った人にはぜひ愛着をもって使ってほしい、という願いでした。起業家としての思いを顧客に伝える役割をスタッフに託したわけです。その思いを共有できたからこそ、販売員たちはストーリーテラーの職名のもとモラール向上を実現できたに違いないのです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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