早朝から電車に揺られ、会社に着いたら上司からの「ありがた~い」お話が。取引先では無茶なゴリ押しに笑顔で応え、気が付いたら今日も終電――かような「社畜」たちを笑いで勇気づけてくれそうな痛快漫画が当節、注目を集めている。その名も「社畜!修羅コーサク」。何だか聞き覚えのあるようなタイトルだが......。
理不尽のたび繰り出す「スキル」
江戸パイン作の漫画「社畜!修羅コーサク」は、はじめイラスト・漫画投稿サイト「ニコニコ静画」で公開され、2016年9月20日には単行本第1巻が講談社から発売された。
主人公の図画コーサクは、「武辣苦(ブラック)商事」に勤務する真面目な社員だが、Fuckoka(ファックオカ)の墓多(ハカタ)という架空都市の墓多死社(ハカタシシャ)に左遷されてしまう。
墓多はなかなか刺激的な街だ。道端の木を見上げたコーサクは「木にパイナップルがなっている...やはり東京とは気候が違うな...」と大真面目に感想を漏らすが、それはパイナップルではなく手榴弾だった。繰り返すが、墓多は架空の都市だ。
そこで様々な理不尽に見舞われるコーサクだが、それらのピンチを社畜生活で身につけたスキルで見事に切り抜けていく。
例えば、言葉の意味がわからず会話が成立しない相手の話を聞く時の「社畜リスニング」。
オシャレでイケメン、しかし怒らせたら手がつけられない「元ヤンチャボーイ」の先輩・ファク山に、風呂を沸かす「バランス釜」の使い方をたずねたコーサクだが、「ファクる」「ファク認」「みんな違ってみんなファク」など、意味不明な「ファックトーク」にたじろいでしまう。
しかしコーサクは決して事を荒立てない。「話の腰を折らない」「頷きや相槌を適度にうつ」「先入観を持たずに聞く」「表情や態度から話し手の真意をつかむ」「話の要点をおさえメモをとる」の5つのポイントを守り、「あなたの話に集中しています」という恭順の態度を示し、ひと通りトークが終わってから「最後に100個だけいいでしょうか......」と疑問点を質した。この社畜リスニングでファク山の機嫌を損ねずに済んだ。
次に「社畜謝罪」。コーサクのよくできた社畜っぷりに自分のポジションが脅かされる恐れを感じたファク山が、コーサクを陥れるため、取引先との会食の店を勝手にキャンセルしてしまう。
店に入れなかった取引先は怒り心頭、「武辣苦商事さんとのお付き合いも考えさせてもらうよ」とカンカンだが、コーサクは、「ネコが肛門を見せ相手に敵意が無いことを示す」ようにも見える、「体躯を限界まで折りたたみ尻を高く突き出す」ポーズで謝罪を始める。
ポイントは、「ファク山にハメられた」などと言い訳するのではなく、「自分の非を認めること」「責任を認めること」「今後の対策を話すこと」「相手の感情を思いやること」「最後にもう一度お詫びの言葉を述べること」だ。これで機嫌を直した取引先の許しを得て、その場を何とかしのいだ。実に、私情を殺して会社に殉じる社畜の誠実さが涙と笑いを誘う。