実は「上」にも損失がある
「上に立つ人間の『叱れない』『ほめられない』という行為は、表面的に見てしまうと部下教育や部下育成の機会損失であるということに終始しがちなのですが、実は上司側から見たときに彼らにも損失があるのではないかと。すなわち部下の育成機会を逸することは、上司にとってはリーダーシップの発揮機会の損失になりませんか」
叱らない、ほめないという行為は、試しに叱ってみよう、試しにほめてみようという行為を排除するものであり、どのみち自分にはプラスに働かないだろうという結論に、勝手に至ってしまっているのです。やってみないどうなるか分からない不確実なものをあえて受け入れてこそリーダーシップは発揮できるのであり、不確実さを引き受ける機会を排除してしまうことは、確かにIさんが言うように、リーダーシップの発揮機会をも逃していると私も思いました。
脳科学者の茂木健一郎氏は著書『ひらめき脳』の中で、「不確実性は感情を活性化させる」という言い方で、不確実なものを自分に受け入れることのメリットを強調しています。不確実の中に身を置くことで自身の感情を活性化させ、リーダーシップ意識を高めていく、そのためにも叱ること、ほめることが必要なのだと、茂木氏の理論からも思わされるところです。
「叱れない上司教育を、あるべき部下指導という観点からどうするかとばかり考えていたのですが、これはあるべきリーダーシップという研修の中でしっかりと教えていくほうが、効果がありそうです」
Iさんは、私との一連のやり取りから、何か有力なヒントをつかんだようでした。私もまた、いつか、ほめられない社長を見かけた際には、リーダーシップの観点からご意見申し上げるようにしたいと思います。(大関暁夫)