一度でも入院し手術を受けたことのある人なら、高額療養費を知っているだろう。医療費が高額になり、自己負担の限度額を超えた場合に、超えた分のお金を払い戻してもらえる制度だ。
ところが、全国健康保険協会(協会けんぽ)の2015年の調査によれば、高額療養費の認知率は57.8%だという。いまだに4割以上の人が医療保険のCMなどを見て、必要以上に不安を募らせている可能性がある。
たとえ月100万円かかっても
自己負担の限度額の計算式は年齢や収入によって異なる。
たとえば、70歳未満で年収約370万~770万円の場合、
8万100円 +(医療費-26万7000円)× 1%
月に100万円の医療費がかかると、病院の窓口で3割負担分の30万円を支払う。上の式で計算すると自己負担の限度額は8万7430円となり、21万2570円が戻ってくる。
また、病気が長引くと負担が大きいが、直近12か月の間に3回以上高額療養費制度を使っている場合、4回目以降は限度額が下がる「多数回該当」という仕組みもある。
さらに医療費の払い戻しを受ける場合、3か月程度かかるが、健康保険組合や国民健康保険の窓口(市町村)で発行する「限度額適用認定証」を病院の窓口に提出すれば、病院には1か月の限度額を支払えばいい。この限度額適用認定証の認知率は33%しかない。
事前に「限度額適用認定証」の申請ができず、病院の窓口での支払いが困難な場合には「高額医療費貸付制度」もある。これも健康保険組合や国民健康保険の窓口(市町村)で手続きする。
不足分を民間保険で補う
高額療養費制度があれば、治療費は月に最高でも9万円ほどで済む。9万円は軽くはない出費だが、現役世代であれば支払えない金額ではない。では、この制度があれば医療保険は必要ないかというと、そうではない。
公的な健康保険の適用対象外のものには使えないからだ。先進医療や保険対象外の薬、差額ベッド代、入院時の食事代などだ。これらはすべて実費で請求される。
がんなどの重い病気で公的保険対象外の治療に頼らざるを得ない場合、治療費はすべて自分で支払う必要がある。また、公的保険適用内の医療と適用外の医療を同時に用いて、いわゆる混合診療をした場合、ごく一部を除いて、どちらも全額負担になるという医療制度上のルールもある。
国の医療財政が逼迫するなか、高額療養費制度を見直す動きもある。廃止にはならないまでも、ハードルが高くなる可能性は大きい。国の制度をしっかりと活用し、不足分を民間の保険で補うという考え方が必要だ。(阿吽堂)