2016年10月から、最低賃金が全国平均で25円引き上げられたというニュースがありました。そもそも、最低賃金とは一体何なのか? 引き上げられるとどうなるのか? など、なんとなくは知っているけれど具体的には......という方が多いのではないでしょうか。
今回は、相談者のエピソードをもとに、最低賃金とは何か、計算方法はどのようなものかなどを詳しく解説していきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=最低賃金、どうやって計算すればいいか教えてください
僕の給料は総支給額20万円で、今東京都に住んでいるのですが、給料が安すぎて暮らしていくのも大変です。友人に相談しても、「みんなそんなもん」と言うのですが、毎月赤字で本当にキツいです。給料の中にはみなし残業代が50時間分ついていて、残業もだいたい月に50時間ぐらいです。先日、最低賃金が引き上げられたというニュースを見たんですが、もしかして僕の給料って最低賃金より少ないんじゃないかと思います。最低賃金より少ないかどうか、どうやって計算すればいいのか教えてもらえますか?
弁護士回答=残業分を計算すると法律違反の可能性も
最低賃金とは、「最低でもこれ以上の賃金を払ってくださいね」という形で定められた最低限の賃金のことです。最低賃金法という法律によって決まっていることなので、人を雇っている会社などは、最低賃金以上の賃金を払う義務があります。これに違反した場合罰則もあります。
具体的には、都道府県ごとに額が決まっており、東京では時間額(時給)932円、沖縄では714円などです(2016年10月1日発効)。他にも業種によっても、決まっている場合があります。
どのように計算するかというと、東京都の最低賃金は、時給932円というような形で決められているので、例えば、1日8時間働くことになっている人の場合は、1日あたりの最低賃金は、932円×8時間で、7456円になります。また、1か月に160時間働く人の場合、1か月当たりの最低賃金は、932円×160時間で、14万9120円になります。
では、相談者の場合の計算をしてみます。まず、前提として、東京都で、月給制で給料をもらっており、1日8時間労働で、土日祝日休みとします。まず、1か月当たりの労働することになっている時間(これは、残業せずに始業時刻から終業時刻まで働いた場合の労働時間のことであり、「所定労働時間」といいます)を計算する必要があります。
2016年は、土日祝日が120日あるので、労働日数は、245日あります。そこで、245日×8時間÷12か月=163.33が1か月あたりの所定労働時間となります。すると、相談者の最低月給は、932円×163.33=15万2224円(小数点以下四捨五入)となります。この結果、給料は20万円なので、最低賃金を下回っていないようにも思えます。
しかし、相談者によれば残業が月に50時間となっており、その分のみなし残業代も含めて20万円をもらっているというので、話が少し変わってきます。
みなし残業代の計算をすると、932円×1.25×50時間=5万8250円となり、これも合わせると、本来ならば、相談者は21万474円以上の給料を受け取る必要があります。にもかかわらず20万円しかもらっていないのであれば、この会社は最低賃金法に違反している可能性がありますね。
現実の計算は複雑、資料も必要に
なお、以上は、あくまで上記の前提条件に従った場合の計算ですので、注意が必要です。
仮に相談者が足りない分の賃金を請求するとしたら、きっちりとした額を計算する必要があるため、給与明細だけでは足りず、所定労働時間と実際に何時間労働したかを示す資料も必要となります。すなわち、雇用契約書や就業規則、タイムカードなども準備する必要があります。
今の日本は、残業が当たり前になっていますので、自分が賃金をいくらもらえるはずなのかを計算するには、所定労働時間の最低賃金の計算だけでなく、残業代の分も含めて計算する必要があり、複雑になります。困ったときには、弁護士など専門家に相談をしてください。
ポイント2点
●会社などは、最低賃金以上の賃金を払う義務があり、違反した場合罰則もある
●差額を請求するには給与明細だけではなく、所定労働時間と実際に労働した時間を示す証拠も必要なため、雇用契約書や就業規則、タイムカードなども必要となる