最近、若年層の自民党支持率の高さがいろいろと話題となっている(たとえば朝日新聞2016年9月30日付「(耕論)若者の与党びいき」)。
18歳選挙権の実現にしても、野党の側に「若者は反体制好きだから自分たちの支持に回るはず」という淡い期待があったからこそすんなりと実現したのだが、ふたを開けてみれば先の参院選では20歳未満の4割が自民党支持という結果に終わっている。
日本の入れ物そのものが「体制」
なぜ、団塊世代とは逆に、今の若者は体制びいきになったのだろうか。考えられる理由は2つある。
(1)本当に若者がヘタレになったから
(2)実は野党が反体制派でもなんでもないから
結論から言うと、筆者は2番のほうがしっくりくるように思う。いい機会なのでまとめておこう。
独立した官僚機構が機能し、普通選挙権も確立した現代日本においては、実は与野党の線引きは、体制・反体制の区分けとしてはあまり意味がないと筆者は考えている。たとえば民主党政権が誕生して革命的に何かが変わったと実感した人は少ないだろう。現代日本という入れ物のラベルが(一時的に)民主党に変わっただけで、入れ物自体は変わらなかったのだから当然だ。
というわけで、雇用制度とか社会保障制度まで含めた現代日本という入れ物そのものが「体制」で、それらに対するスタンスで体制・反体制の線引きをすべきだというのが筆者の見方だ。
既得権ない世代に魅力的なのは
さて、筆者はかれこれ10年ほど前から格差是正や経済成長のために正社員の既得権にメスを入れろと主張してきたが、それに強硬に反対してきた、つまり現体制を死守しろと唱えてきたのは、旧民主党、社民党、そして共産党といったリベラル勢力の面々だ。
現実にも共産党は派遣労働者の3年ルール厳守を主張することで2009年問題を誘発し、結果的に派遣切りを拡大させたし、民主党は政権時代の派遣規制強化で40万人もの派遣労働者を削減し、失業者とパート・アルバイトを増やした。格差の是正どころか、既得権層を全面的に擁護した形だ。
以下は、経営者でも保守でもない、ある労組関係者が筆者に言い放った言葉だ。
「非正規雇用労働者は若いころに努力をしなかったのだから、今苦しくてもそれは自己責任だ」
こういうことを口にする人たちが「反体制」だとは、筆者にはとても思えない。
フォローしておくと、与党の側が既得権に積極的にメスを入れろと言っているわけではなく、ほとんどの自民党議員は雇用問題に無関心だし、社会保障改革では与野党とも五十歩百歩だ。自民の一部にそうした構造改革の重要性を理解している人がいて、そうした政策がマニフェストにたまに顔を出す程度の話に過ぎない。ただ、既得権を持たない世代にとってどちらが魅力的に映るかと言えば、やはり自民党のほうではないか。
さらに言うなら、現在の野党4党(民進、共産、社民、生活)によるいびつな共闘も、その本質は、彼らが格差や既得権といった問題から逃げるためのアリバイ作りなのではないか。「ワシらは現状維持したいから、貧乏人と若者は現状に甘んじろ」とは口が裂けても言えないから、取るに足らない問題で大騒ぎしてみせ「頑張ってますアピール」しているようにしか筆者には見えない。
体制を変えようとする勢力が野党の側にほとんどいないことが、日本の政治停滞の最大の理由だろう。安易な野党共闘パフォーマンスなどに踊らされない若年層は、その構図を冷静に見抜いている分、上の世代よりよほど健全で「反体制派」だというのが筆者の意見だ。(城繁幸)