昔から付き合いのある機械系輸入商社T社のN社長を久しぶりに訪ねました。目的は、私が主宰する交流フォーラムへのお誘いです。
隔月開催の交流フォーラムは、毎回、自薦他薦のプレゼンターによるプレゼンテーションを聞きつつ、懇親会で人脈を広げていただくという趣向。プレゼンのテーマは技術系からサービス、プロモーションや管理に至るまで幅広く、大企業、中小・ベンチャーの様々な業種の方々に入れ代わり立ち代わりご出席いただき、大変盛況をいただいております。
2代目に目新しさが出ない
会の設立コンセプトは、オープンイノベーション進展のお手伝い。他社が持つ技術やアイデア、サービスなどを自社のものと組み合わせ、革新的なビジネスモデル、製品開発、サービス開発につなげようという試みです。近年、大企業の間でもオープンイノベーションを掲げて、中小・ベンチャーと組んでプロジェクトを進める例が相次いでいるのです。
T社は商社であり、自前の製品や技術を持っているわけではないので、技術面でのオープンイノベーションはやや期待薄ではあるのですが、私にはちょっとした別の目的があってN社長をこの集まりにお誘いしようと思ったのでした。それというのも、先代の時代から同社の経営参謀役であるY常務から、こんな話を聞き込んだからでした。
「社長が先代から経営を引き継いで2年になりますが、若返った分、物言いはハッキリしてきているものの、新社長らしさ、目新しさが全く出てこないのです。私も、会社が安泰だった90年代までならそれもありかと思ったかもしれませんが、ここ10年ほどは経営方針に守りの姿勢が強くなり、業績もジリ貧状態が続いており、このままではいけません。社長交代で新しい風が吹くと期待していた社員たちも、トップが口うるさくなっただけで何も変わらないと次第に不安を口にするようになっています。一度社長と会ってもらえませんでしょうか」
N社長は2代目で50代半ば。先代の急逝で社長の座に就きました。創業者である実父がついぞ社長の座を譲る姿勢を見せなかったために、常務として営業部門だけを管轄してきました。ご健在の頃先代に聞いた話では、古くから付き合いのある業界筋の人間とは付き合いが深いものの、人見知りで外人脈に乏しく、どちらかと言えば内弁慶タイプである、と。もう少し社交的にならないとトップは任せられない、と言っていたことを思い出しました。
社外トップ迎えられぬ中小は?
今の時代、組織やリーダーには「常に変化し続けなければならない」というテーマが与えられています。高度成長に支えられて自らも成長し、その余禄にあずかって生きてきたT社にとっても、先代の時代とはちがう「変化」が求められているのです。
ところが人間の脳は、よほど強い刺激を得ない限り基本的に「現状維持」を求める仕組みになっています。長年、強いリーダーシップを持つトップの庇護の下で安穏とした日々を過ごしてきたN社長のような人物は特に、いきなり「変化」を求められてもなかなか難しいのかもしれません。
ではどうすればいいのか。「変化」にはフレッシュな視点が欠かせません。「変化」のきっかけとなるフレッシュな視点をいかにして持つかが重要なのです。世界の企業で新しいトップが 社外から 雇われるケースが増え、近年は我が国においてもそのような傾向が強くなってきています。それも「異質なトップによるフレッシュな視点の注入」という考え方とつながっているように思えます。
米国サフォーク大学にはこんな調査もあります。
同じ業界からトップを迎えている企業と異なる業界からトップを迎えている企業とでは、半年以内の短期間では同じ業界からトップを迎えた企業のほうが業績や株価パフォーマンスの平均がいいけれども、3、4年後にはその実績が逆転し、異業種からトップを迎えた企業が完全に上回るというのです。
中小企業のように、簡単には社外からトップを招けない場合はどうするのか。現トップを中心として、組織内に「新しい視点」や「これまでとは異なる観点」を得る機会や環境を創り出せればいいのです。そのために必要なことが、トップ自ら異業種の外人脈と接点を増やすことです。私がY常務に乞われてN社長を訪ね、交流フォーラムにご案内しようと思った理由は、そこにありました。
N社長との面談で、私はいきなりフォーラムのご案内をするのではなく、フレッシュな視点による「変化」の重要性の話からはじめて徐々に、異業種の人たち話を聞き、意見を交換し、人脈を広げることの有効性をお伝えしました。すると社長は、「実は会社をどう時代に順応させ変えるべきか悩んでいた」「異業種の視点をぜひ吸収したい」と前向きに受けとめてくれ、次回11月のフォーラムへの参加を約してくれたのです。ある意味、予想外の嬉しい反応ではありました。
人見知りなN社長の先導役として、拙フォーラムへの参加をきっかけに、他の異業種交流の場もご紹介しつつ、T社の来るべき「変化」に資する「新しい視点」や「これまでとは異なる観点」の獲得に向けたサポートをさせていただければと思っています。(大関暁夫)