「見えざる手」が正しく導く
入社時に、先輩から「経済の勉強になるから」と言われ、僕は株を始めました。「経済白書」を読む仲間うちの勉強会などに参加したりはしていたものの、身銭を切る勉強はまったく違うものでした。
そこで勝ったり負けたりしながら、僕が得心したのは、「いくら考えを尽くしても予測は当たらない」ということでした。
「人間の脳みそには限りがある。何が正しいか人間には分からないのだから、市場に決めてもらうしかない」
僕は、アダム・スミスの経済理論をそう解釈し、「見えざる手」は正しい、と実感するようになりました。「株を買う金は返ってくると思うな」という先輩のアドバイスは、これまた当を得たものだったのです。
右肩上がりの時代に先輩から教えられた教訓が、今の時代に通用するかといえば、そうとばかりとも言えません。たとえば、「部下にはおごる」というルールにしても、今はどうでしょうか。僕が今の会社の若い人と飲みに行って、払いを済ませようとすると、
「出口さん、それ古いです!」
と指摘されたりします。割り勘のほうが気分がいいようです。(出口治明)