先輩に教えられたお金の使い方(ライフネット生命会長・出口治明)

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「見えざる手」が正しく導く

   入社時に、先輩から「経済の勉強になるから」と言われ、僕は株を始めました。「経済白書」を読む仲間うちの勉強会などに参加したりはしていたものの、身銭を切る勉強はまったく違うものでした。

   そこで勝ったり負けたりしながら、僕が得心したのは、「いくら考えを尽くしても予測は当たらない」ということでした。

「人間の脳みそには限りがある。何が正しいか人間には分からないのだから、市場に決めてもらうしかない」

   僕は、アダム・スミスの経済理論をそう解釈し、「見えざる手」は正しい、と実感するようになりました。「株を買う金は返ってくると思うな」という先輩のアドバイスは、これまた当を得たものだったのです。

   右肩上がりの時代に先輩から教えられた教訓が、今の時代に通用するかといえば、そうとばかりとも言えません。たとえば、「部下にはおごる」というルールにしても、今はどうでしょうか。僕が今の会社の若い人と飲みに行って、払いを済ませようとすると、

「出口さん、それ古いです!」

と指摘されたりします。割り勘のほうが気分がいいようです。(出口治明)

出口治明
出口 治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険株式会社創業者。1948年三重県生まれ。京都大学卒業後、1972年に日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命保険株式会社を開業。著書に『生命保険とのつき合い方』(岩波新書)、『働く君に伝えたい「お金」の教養--人生を変える5つの特別講義』など。
2018年1月から、立命館アジア太平洋大学学長、学校法人立命館副総長。
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