パネラーからは共感が
F氏はそこまで話すと、「このようにしてS社のシステムを入れた経営者の決断について、皆さんの意見を聞かせてほしい」と、参加者の社長方に話を振りました。私は内心、「よくそんな高価な投資を決断できるものだ」という類の、距離をおいた意見が飛び交うものと思っていたのですが、意外や意外、システムを導入した社長たちの決断に共感する意見が次々と出されたのです。
「基本的に自社の営業に満足している社長なんてほとんどいない。変革による飛躍はほとんどの経営者が望むことですから、痛いところを突かれた感じでしょうね。その気持ち、よく分かります」
「企業を飛躍させたい経営者限定、という匂いを漂わせて、IT活用による営業スタイル変革と自社を飛躍に向かわせる仕組みづくりを具体的に見せられたら、リターンが確実に期待できる投資と思えるでしょう。私も資金的に余裕があるなら導入したいと思うかもしれません」
「潜在的に望んでいること、悩んでいることをズバリと突く。経営者は孤独な存在、『いかにして自社を発展の道に導いていくべきかという課題を分かち合える同志がいた』とプレゼンに引き込まれ、多少大きな投資でも背中を押される気持ち、私にも覚えがあります」
パネラー経営者は皆、事業に前向きに取り組まれ、成功に導いてこられた優秀な方々です。そんな波に乗った面々が、このように「変革」や「飛躍」と言ったキーワードに魅力を感じ気持ちを揺り動かされる様は、よくよく考えれば納得でもあり、興味深い反応を見せていただいた気がしました。同時に、この米国IT会社S社のプレゼンテーションは、ターゲットを絞り込み、前進を続ける経営者の内面にズバリ到達する言い回しの妙に優れているのだな、とも感じさせられました。
恐らくは、経営者が言葉に出さずとも常に意識している「変革」や「飛躍」といったキーワードが彼らの経営者脳を刺激し、「あぁ、この会社は私の会社を更なる発展に導いてくれそうだ」と決断を促すのでしょう。この手法は、恐らくは発展軌道をいくS社の経営層が考え、同じく前向きに発展軌道をいく経営者を取り込むセールス手法として練り上げたスタイルなのではないかと想像されるところです。