読者の皆さん、お久しぶりです。2015年度まで本欄で、さまざまな職業の女性たちに取材する「メガネライターは見た!」なる連載をしていた、北条かやです。今回からは心機一転、「働く女とおカネ」について、あれこれ考察していきたいと思います。タイトルはずばり「北条かやの女子マネー考現学」。どうぞよろしくお付き合いくださいませ。
欲望叶える世界に引きずり込まれ
ライターとしてある程度、独り立ちできるようになった私が、最も多くのおカネを使ったのは美容整形かもしれない。拙著『整形した女は幸せになっているのか』で美容整形業界を取材して以来、すっかりハマってしまった。
美容整形は奥が深い。次から次へと医療の最新技術が応用され、女性たち(最近では男性も増えている)の「美しくなりたい」欲望を叶えていく。ドクターも、整形で綺麗になった女性たちも皆、きらびやかに演出されており、取材しているうちに「私もやってみたい」と思うようになった。その世界の魅力に引きずり込まれたというべきか、巨大な美容整形産業を前に、ドン・キホーテのごとく戦いを挑んだというべきか。
私は、ここ2年ほど業界で一世を風靡している「痩せる注射(BNLS)」に大枚をはたいた。美容整形産業に戦いを挑むには、カネがいるのである。BNLS注射は韓国で開発された新技術で、天然成分の効果によって「部分痩せ」を可能にするという。術後の腫れなどダウンタイムがほとんどなく、効果が最短3日ほどで現れる。
2015年冬以降、私は何度か大手美容外科のカウンセリングを受け、太さが気になる二の腕や腹部に「夢の痩せる注射」を打った。費用は二の腕、腹部がそれぞれ約30万円、合計60万円なり。1冊の本の印税が、ほとんど飛んでいった計算になる。「何をバカなことを」とお叱りの声もあるだろうが、これといった趣味もなく彼氏もいない私は、他にお金を使うところがない。ライターとしていつかネタになるかもしれぬという下心もあり、美容整形に投資しようと考えたのである。
10万円ごとに二の腕マイナス1センチ
二の腕に打った注射は、かなりの効果が出た。定期的に3回打って、腕の細さは2~3センチのマイナス。BNLSは体内の脂肪を排出する効果があるので、一緒に食事制限などをするとより良いらしい。
ちょうど仕事が忙しく、食事量が減ったので、注射「だけ」の効果かどうかは分からないが、とにかく私の腕まわりは「30万円で3センチ」減ったのだ。1センチ減らすのに10万円。運動が大嫌いでストレスになる私にとっては、注射だけで痩せられるというのは嬉しかった。友人に話すと「高い」「信じられない」と言われたが、私は大満足であった。
一方、腹部は脂肪が多すぎたのか、あまり効果が得られなかった。30万円も払ったのに、むしろ体重が増え、サイズも変わらなかった。腹の試合は「完全に私の負け」である。二の腕で「勝利」したから、お腹も痩せるだろうと過剰な期待をしてしまったのだ。悔しい。 私は何のために30万円の大枚をはたいたのだろう。細くなりたい、キレイになりたい、その欲望をラクに叶えられるかも......という欲望に、30万円は消えた。術後2週間ほどはワクワクしていたので、1日2万円で「期待に胸ふくらませる体験」を買ったのかもしれない。
もちろん返金請求はできず、私は下腹に消えた30万円を、こうして地道に原稿を書くことで取り戻そうとしている。「美しくなりたい」という欲望を叶えるのに、勝率は今のところ一勝一敗の5割。勉強代にしても30万円は高かった。
仕事、頑張ります......。(北条かや)