会議にかける企画書や取引先に提出する資料の作成、新サイトのコーディング......いろいろな仕事に「締め切り」は付き物だ。間際になって慌てて準備し始めるのは夏休みの宿題に苦しんだ子供の頃と寸分変わらない、などと自嘲しながら時計と競争するビジネスパーソンも、そこらじゅうにいるに違いない。
締め切りに悩まされるのは、歴史に名を残すような文豪も、当代の売れっ子作家も同じ。彼らが締め切り直前に漏らした苦悩や言い訳を拾い集めた書籍が今、話題になっている。
「今夜、やる。今夜こそやる」
『〆切本』(左右社、2016年8月30日発売)は、夏目漱石、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、村上春樹、藤子不二雄Aら90人の、締め切りにまつわるエッセー、手紙、日記、対談など94篇を収録。書肆自ら「しめきり症例集」とうたい、読者に向けての「しめきり参考書」でもあるという。
例えば、田山花袋の「机」。
「『今夜、やる。今夜こそやる。......』 こう言って、日当たりのいい縁側を歩いたり、庭の木立の中を歩いたりする。懐手をして絶えず興の湧くのを待ちながら......」
また、坂口安吾の「人生三つの愉しみ」。
「仕事の〆切に間があって、まだ睡眠をとってもかまわぬという時に、かえって眠れない。ところが、忙しい時には、ねむい。多分に精神的な問題であろうけれども、どうしてもここ二三日徹夜しなければ雑誌社が困るという最後の瀬戸際へきて、ねむたさが目立って自覚されるのである。」
思わず「そりゃ仕方ないよなあ」と情けをかけたくなるような逃げ口上も多数。