「このたびは申し訳ございませんでした。これは、つまらないものですが......」
菓子折り持参でひたすら平身低頭。あってほしくない場面だが、きわめて重大なビジネスシーンであるには違いない。そうした苦境にお詫びの品としてぴったり、とひそかに支持を集めているのが『切腹最中(せっぷくもなか)』。東京・新橋の老舗和菓子店「新正堂(しんしょうどう)」が1990年に売り出し、今では1日3、4000個以上を売り上げる看板商品だという。
お詫び用の手土産に
発売当初は売れ行きが伸び悩んだが、ひいきの客の間で「お詫び用の手土産にすると、相手が笑って許してくれる」と評判になり、人気に火が点いた。「せっぷくさいちゅう」とも読めることから、「このとおり腹を切ってお詫びいたしまする」と、ユーモアをにじませながら謝罪の気持ちを伝える小道具として営業マンを中心に重宝されるようになったという。
一風変わった商品名は「忠臣蔵」から。新正堂の店舗が、赤穂藩主の浅野内匠頭が腹を切った田村右京太夫屋敷跡に立地している縁で、三代目社長の渡辺仁久さんが名付けた。最中は、包み込みきれないほどたっぷりの餡が皮と皮の間からのぞけるおおらかさ。刺激的な商品名とは裏腹に「上品で繊細な甘さ」という触れ込みだ。1個200円(税込)。
実際にこの最中を謝罪の場に持参するビジネスパーソンは多いのだろうか。J-CASTニュースが三代目を直撃すると、
「残念ながら、大変多いんですよ。世の中に失敗している人がいかに多いことか、と思うばかりです」
と笑った。例年、浪士が吉良邸に討ち入りを果たした12月、店先に行列ができるほど人気が一段と高まるそうだ。
「年の暮れには、誰かに謝りたいと思う人が増えるんですかね......」