大学を卒業して社会人になった僕の最初の大きな買い物は、ほかでもない、生命保険でした。
月給の2割が保険料
会社の独身寮に入り、新人研修が終わると、我々の研修グループの世話をしてくれた「寮先輩(今の言葉でいえばメンターでしょうか)」から、
「最初に入る保険はこれや。みんな入るんやで。月9800円」
と言われたのです。僕はちょっとむっとしました。
当時の初任給は4万8000円。月々の保険料9800円は、ほぼ2割に相当します。
「僕はいやです」
と、断固拒否しました。先輩は「大丈夫、1~2年だけの辛抱や。すぐにチャラになるから」ととりなしたのですが、その意味が分からず、1年目は結局入りませんでした。僕と、もう一人ぐらいでしたか、先輩の言うことを聞かなかったのは。
実際、1年たつと給料が6万2000円になり、昇給分で保険料はチャラになったのです。時まさに高度成長の真っただ中の時代でした。
右肩上がりの時代には、「あなたにとって必要な保障額はこれぐらいですよ」と説明するのがセールストークでした。保険料の案内は二の次。負担は毎年減っていくのですから。住宅ローンも同じだったのでしょう。いい物件を見つけるのが先決で、支払いはなんとなかなる、という感じだったのです。
今はそうはいきません。平均所得は右肩下がり。特に20代・30代の子育て世代の所得が低い。このような時代には、僕たち保険会社は保険料ベースで商品を案内しなければなりません。ファイナンシャルプランナーの意見などを聞きますと、保険料は手取りの3~5パーセントぐらいが適当な水準だとか。手取りが20万円なら保険料は1万円以内、ということです。低成長の時代は、固定費である支出をしっかりと考えなければならなくなったのです。
お金は自分のために「使ってなんぼ」
そうは言っても、若い人はお金を使わなければなりません。人と会うのに飲みに行くこともあるでしょうし、何か勉強をするにも、現場に足を運ぶのにもお金が必要です。若いうちは、僕のいう「人・本・旅」にお金を惜しむべきではないと思います。借金をしない範囲で、よく考えてお金を使うといいのではないでしょうか。
月々20万円の手取りがあれば、5パーセントの範囲で保険料を払う。独身の人であれば、万一長期間働けなくなったときの保険(就業不能保険)に備えてください。残りの19万円について、衣食住にいくらかかるか、計算してみる。アパートの家賃、食費、携帯電話......。そうやって、たとえば15万円かかるとすれば、余った4万円を好きなことに使えばいいのです。
「こんな時代だから何が起きるか分からない。だからなるべくお金を貯めておいたほうがいい」
そう考える人がいるかもしれません。
しかし、ひたすら貯金して、それで人は賢くなるでしょうか。若いうちに自分を鍛えたり、賢くなるよう努力をしないで、いつ成長できるというのでしょう。旅をするのもいい、英会話を勉強するのもいい。自分に投資しないで汲々と過ごすのはもったいないと思います。
お金は「使ってなんぼ」のものです。いざというときの保険をかけておいて、あとは自分を賢くするために使えばいいのだと、僕は思います。自己投資が長い人生で考えると最も収益率が高いのです。(出口治明)