リオデジャネイロ五輪が、大盛況のうちに幕を閉じました。日本選手団は史上最多の41個のメダルを獲得するなど大活躍。テレビを通じて応援した私も寝不足続きの約2週間を楽しく過ごさせていただきました。
個々の記録で劣っても
多くのメダル獲得シーンの中で個人的に特に印象に残ったのは、陸上男子400メートルリレーでの銀メダルです。日本が陸上の短距離種目で「王国」アメリカのタイムをも上回って2位に入った(アメリカは3位入線後失格)のは大変な快挙です。
なにしろ日本チームの4人は、個人の100メートル競走では誰一人決勝に進めず、かつ9秒台の記録保持者もゼロ。そうした個々の能力での劣勢を、磨き上げたチームプレーで補い、37.60秒を記録しての銀メダル獲得には、学ぶべき点が多いと思わされました。
日本チームがアメリカ以下のチームに先着した最大のポイントは、バトンパスにあったそうです。一人ひとりの自己記録で劣る分を、レース中3回行われるバトンパスの巧みさで埋め合わせたという事実。代表メンバーが固まってからの日本チームは、とにかくバトン練習に多くの時間を割いたのだといいます。
ちなみに、日本の4選手の自己ベスト合計は、40.38秒。これに対しアメリカは4人全員が9秒台を持ち、合計すると39.12秒。なんと1.26秒もの差をバトンパス・テクニックで埋めてしまったというのですから、驚き以外の何ものでもありません。
私は、この大快挙が報じられる様をテレビで何度も見るにつけ、企業経営にも共通項があると感じています。特に営業部隊強化において、似たケースに間々遭遇しているのです。
「絶対的エースが欲しい」というが
典型例としては、「営業のエースが退職して大ピンチ。早く代わりのエースを採用しないと会社が危うい」とお悩みを打ち明けてくれたIT機器商社R社社長のケースや、「とにかく営業が育たない。どうやったら自分に代わって稼ぎ頭になってくれる営業マンが育つのか」と嘆いていた、法人向けアパレル販売会社C社社長のお悩みが思い出されます。
経営者というものは、黙っていても業績の大半を稼ぎ出してくれるような営業の絶対的エースが欲しいとか、自身の代わりとなるトップ営業を育てて自らは営業から手を引きたいとか、どうも誤ったお悩み解決法を描きがちなようです。すなわち、営業という活動自体、チームプレーによってこそ実績が伸びもし、評価もされるべきものだということを理解していない経営者があまりに多いのです。
私の持論を申し上げれば、そもそも営業にエースは不要ですし、下手に一人だけ飛び抜けたエース的存在の営業マンが生まれてしまうと、その人が辞めてしまった時のリスクが大きくなってしまい、組織には決してプラスに働きません。
R社のケースもC社のケースも、私がアドバイスしたポイントは同じでした。エースをつくることに気を奪われず、チームの協力体制を強化して全体の底上げをはかることが肝要であると。具体的には、何よりまずリーダー(管理者)を中心としたチーム内コミュニケーションを、事務方を含め活発化させるべき、とアドバイスしました。
営業でも「バトンパス」重視
その目的は、推進と事務の明確な分業による協力体制の強化、担当者の営業活動とリンクしたリーダーの逐次情報共有とフォロー、担当者同士の情報交換による成功体験共有とそこからの営業スタイル確立......等々を実現することにあります。協力体制の確立により個々の持つスキルの和を上回る力を発揮させる、それがリオ五輪のリレーチームとも共通する「スタープレーヤーに頼らない営業チーム強化」のあり方なのです。
言うなれば、チーム内コミュニケーションこそ、バトンパスそのものなのです。私はR社でもC社でも、コーチ役であるリーダーが基軸となる、相互コミュニケーションに支えられた協力体制を確立していくことで、「エース不在でも強い営業チーム構築」を実現してきました。
営業に限らず、組織内のチーム強化を考える時に、ついつい走りがちになる路線が「軸となるエース養成」や「現下のエースの更なる飛躍期待」なのですが、チーム力向上の点でそれは決して得策ではないという事例を私はたびたび目の当たりにしてきました。
皆様の職場で似たような問題にぶつかった折には、今回の五輪陸上リレー日本チームの活躍を思い出していただき、目先を変えて、まずはコミュニケーション強化による協力態勢確立に注力してみてはいかがかと思います。(大関暁夫)