日本人でありながら、カンボジアの国籍を取り、マラソンでリオデジャネイロ・オリンピックに出場した猫ひろし。日本国内では「よく頑張った」から「カンボジア人に失礼」まで賛否両論のようです。
オリンピック自体の知名度も
「カンボジアの出場枠を奪った」「カンボジア人は怒っている」「日本とカンボジアの友好関係にヒビが」みたいなことを言って怒っている日本在住の日本人もいます。私は、カンボジアに住んでいて、日常的にカンボジア人と話をしているのですが、この発言に関しては「ほんまかいな? どのカンボジア人が言っていたんだろう」と思っています。
そこで、私が主催している研修プログラム「サムライカレープロジェクト」の研修生で、カンボジア人にアンケートをとってみることにしました。
「カンボジア人50人以上に猫ひろしを知っているか聞いてこよう!」の号令のもと、プノンペン市内のロシアンマーケットエリアに散っていった研修生。紆余曲折がありながら、見事74人のカンボジア人にアンケートをとってきました。
その結果、猫ひろしの知名度 4%! 74人中3人しか知りませんでした。
ついでに、オリンピック自体の知名度も調べてきたのですが、43%! 猫ひろしを知らないどころか、ブラジルにいろんな国の選手が集まり大規模な競技会が開かれていることすら知らない人のほうが多かったのです。
この数字は、私が日常的に感じていた感覚に一致しています。
カンボジアで生活していると、オリンピックという文字やロゴをみかけることはなく、その存在すらどこにもないかのようです。ポケモンGOには即座に乗っかってるのですが。
米の輸出国に米を送る感覚に似て
「オリンピックはどこでやってると思う?」と英語で聞いても、「Where」と「Olympic」だけ聞き取って、カンボジア市内にある一番大きなスタジアム「オリンピックスタジアム」の場所を一生懸命説明してくれる人が多数。きっと、オリンピックスタジアムの名が「4年に一度開かれる、世界中の選手が集まる競技会」から付けられたということも知らないんでしょう。
プノンペンに住んでいる人たちは、スマホの保有率が高く、ネット経由でオリンピックの情報を手に入れることも簡単なのですが、その存在すら知らない。知っていても興味がないのです。日本人のほとんどが、ムエタイの世界王座決定戦の勝敗に興味がないように。
現場では実際のところこんな感じなのですが、日本人の感覚で「出場枠を奪われたから悔しいに違いない」と勝手に想像して、批判したり擁護したりするのはどうしたもんかと思います。
この感覚は、「カンボジアは貧しい国だから、お米を送ってあげたらみんな喜んで食べるだろう」と、売るほど米を作っているカンボジアの農村に米を送りつける人たちに通じるものがあります。
カンボジアのオリンピック代表として元日本人が出場するというのは、おそらく日本人感覚でいうと、クリケットの世界選手権の日本代表に元パキスタン人が選ばれた、ぐらいの問題なのでしょう。たとえその選考基準に問題があっても、大半の日本人は気にも留めないレベル。
ちなみに、猫ひろしを知っていた数少ないカンボジア人は、「面白いでーす」などと言っていました。
国籍を変えてオリンピックに出場することに賛否が分かれるのは理解できます。しかし、その意見を訴えるために「カンボジア人がかわいそう」を勝手に作ってしまうのは問題です。
怒りをぶつける場所を無理矢理作って怒っても精神衛生上よくないので、ぜひカンボジアに遊びに来て、アンケート調査でもしながら「自分たちとは全く違う感覚の人たちがいる」ということを肌で知ったほうが、自分の世界が拡がって楽しいと思います。(森山たつを)