今年の夏は、台風の影響で大変な思いをされた方も多かったのではないでしょうか。特に北海道や東北では記録的な雨量となり、河川の氾濫や停電、農作物への被害も甚大だったようです。これほどまで大きな台風でなくても、雨や風の影響で電車が遅れてしまうことは珍しいことではありません。今回は、天候の影響で遅刻してしまった場合の給料について、法律ではどのように決まっているのか、エピソードをもとに解説いたします。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=不可抗力の遅刻、上司にも報告したが減給され
昨年、台風の影響で電車が止まってしまい、出勤時間に間に合わない日がありました。僕は、その時電話で上司に電話をして、遅刻しそうなことを伝えると、「台風だから仕方ないね。電車が動かないとどうしようもないから、気を付けて来るように」と言われて、遅刻扱いにはならないのだと安心して、3時間ほど遅れて出社しました。
しかし、その月の給与明細を見てみると、遅刻分が給料から引かれていたのです。確かに遅刻したことは事実ですが、自然災害のせいで僕が悪いわけではないですし、上司も「仕方ない」と言ってくれていたのに給料カットなんて「あり」なんでしょうか? その分の給料ってもらえないものなのでしょうか?
弁護士回答=日給月給制ではノーワークノーペイが原則
自然災害の場合の遅刻については、日給月給制を採用している会社では、原則として会社は労務の提供を受けた分の賃金を支払えばいいことになっています。したがって、会社は台風で従業員が遅刻や欠勤をした場合、法律上は原則としてその部分の賃金をカットしてもよいことになっています。この原則をノーワークノーペイといいます。
会社の責任によって労務の提供ができなかった場合は、ノーワークノーペイは適用されず、賃金を支払わなければなりません。もっとも、台風の影響で遅刻した場合は会社に責任があるとは通常考えられないので、会社は遅刻分の賃金を支払う必要はないでしょう。
何があっても遅刻した分の給料はもらえないのでしょうか。
まず、会社が日給月給制ではなく完全月給制を採用している場合は、遅刻・欠勤をしても賃金控除はされないので、台風の影響で遅刻をしても給料カットはされないことになります。
また、会社の就業規則を確認すると、「天変地異により出勤することが困難な場合は交通遮断休暇を与える」という規定が定められている場合があります。これは特別休暇の一種です。その交通遮断休暇を有給にしているか否かは会社によって異なりますので、一度就業規則を確認してみるべきでしょう。
遅刻した日の残業代は出るのか
では、遅刻して出社し、普段の終業時間を超えて仕事をした場合、残業代は発生するのでしょうか。
原則として、残業代は仕事をした時間が法定労働時間を超えた場合に限られます。つまり、遅刻があった場合は、終業時刻を過ぎていても、実際に仕事を始めてからの労働時間をカウントして法定労働時間(8時間)を超えなければ、会社が残業代を支払う必要はありません。
もっとも、あまり見かけませんが就業規則に、「終業時刻を超えた時間を時間外労働とする」というように定めている会社があります。その場合、実労働時間が8時間を超えていなくても就業規則に定められた就業時間を超えて労働している以上、残業代を支払わなければなりません。このような規定では、たとえ遅れて出社していても、終業時刻を過ぎた時間分の残業代を支払う必要があります。
遅刻欠勤や残業代の支払いに関しては、会社が任意に決定できる部分もあるため、一度ご自身の会社の就業規則を確認してみることをお勧めいたします。
ポイント2点
●原則として、会社は台風で従業員が遅刻や欠勤をした場合、法律上はその部分の賃金をカットすることができる
●就業規則に定めがある場合、天変地異による交通遮断休暇を特別休暇として、有給となる場合もある