資金的に厳しかった時期をいかに乗り切ったか、という質問は、経営者に刃を突きつけるような質問です。にもかかわらず、長寿企業の皆さんは真摯に受けとめ答えてくださいました。65%を超える経営者が、銀行からの借り入れでしのいだと答えています。
第2位には、大きく差が開いて19%の「会社資産の売却」が挙がっています。会社資産を売るということは、すでに銀行の借り入れが行われている可能性が高く、それでも立ち直ることができなかった末の措置だったのでしょう。
死ぬも生きるも
多くの長寿企業が、厳しかった時代を銀行の融資で生き延びたわけですが、「経営が長期に維持、発展してこられた要因は何か」という問いには、経営者は以下のように答えました。
取引先との関係:75社で23%
商品力:49社で15%
ブランド力:45社で15%
製品や商品の良し悪しよりも、取引先との良好な関係を維持してきたことが最大の要因とされています。また、「経営を危うくする事柄はなにか」という別の問いに対しては、「販売先の業績」を第1位に挙げており、この2つは表裏一体です。つまり、経営が発展するのも、危うくなるのも、その要因は「取引先との関係」にあると考えているのです。よって、取引先に長くかわいがっていただくことを何より大事と考えるわけです。
かわいがられるためには
大阪に本社を置く武田薬品工業は、創業から230年を経ていながら、今なお挑戦的な経営で、成長を続けている企業です。弊社出版文化社が同社の230年史と、武田科学技術財団の年史を作らせていただく過程で教わったのは武田家の家訓「運鈍根」でした。
「運」は、うまく行ったときは実力と思わず、運がよかったと考えよ、という謙虚な心を求めるもの。「根」は、商売は根気よく取り組んでこそ花が開く、というビジネススタイル。そして、「鈍」は、顧客に向き合ったときに求められる振る舞いの要諦、すなわち、
「お客様にかわいがっていただくには賢そうに振る舞うな。愚鈍なぐらい控えめにして、長くお付き合いいただくほうがよい」
というものです。「鈍」は、自らのあり方ではなく、顧客との関係の大切さに注意を促しています。
愚かそうに振る舞ってでも、長い取引をいただいてこそ、商売は成り立つ。知っていることでも、知らない振りをするぐらいがよい。そうしてまでも、一度つかんだお客様は絶対離さない。さすが230年の知恵です。
これがフランス生まれの現社長にうまく伝わることを、切に願っているところです。(浅田厚志)