一度は社長の信任を得たが
随分前の話ですが、中堅電機メーカーI社でクーデター未遂事件がありました。
資本の関係で大手企業から天下り君臨しているワンマントップU社長を、一部の生え抜き役員たちが引きずり下ろそうとして水面下で画策したものでした。退任決議をしてプロパー政権に戻そうとする一味の動きを察知した、同じく生え抜きの社長室長H氏が、それを社長の耳に入れ未然に企てを潰したのです。
密告的な行動で同じ生え抜きのクーデターを阻止したH氏の言い分は、
「社長を危機からお守りするのが社長室長である私のミッションであり、かつ社長解任劇の発生などは決して企業イメージ的にもプラスにならない」
という理にかなったものでありました。しかし、彼がその後ほどなく社長の意向で役員に抜擢されたこともあって、多くの社員からは裏切者呼ばわりされ、社内では浮いた存在になってしまいました。
そんな組織(=実権者)への忠誠を重んじて行動しU社長の後継とまで目されるようになったH氏に、2年後、思わぬ展開が待っていました。
H氏の常務昇格を内心で決めた社長が、内々示をしようと彼を自分の執務室に呼びました。現在の担当である人事部門からの異動希望の有無を確認する意味で、「何か次にやりたい仕事はあるかね」と社長が聞くと、H氏はこんなふうに答えたのです。
「私の希望をあえて申し上げさせていただくなら、以前の上司で大変お世話になった関連会社社長Sさんの手助けがしたいです。だいぶ苦戦をされているようなので、今こそ過去の恩返しができればと思っています」