数字好きトップは現場知らず 無理が通れば待つのは悲劇か(江上剛)

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コスト削減のプレッシャーで

   以前、雪印乳業が食中毒事件を起こして大問題になったことがある。その後の不正もあって、結局、雪印乳業は解体されてしまう。

   あの時、トップは食中毒の原因となったパイプの汚れ落としの掃除を毎日しているものと認識していたが、実は、毎日掃除をしていなかった。コスト削減のプレッシャーのために、現場は掃除の回数を減らしていたんだ。

   「そんなこと聞いてないよ」とテレビカメラの前でトップが驚愕の声を発したが、あれは惨めだった。噂によると、そのトップは、現場よりも数字を重視する人で、とにかくコストカットが大好きだったらしい。コストカット、コスト削減ばかり連呼するトップだったそうだ。

   悪い数字が上がってくると、怒鳴るだけ。これじゃ現場は、「員数合わせ」の手法で適当な数字、すなわち毎日掃除をしています、だけど費用は増えていませんと報告することになる。

   昔から「無理が通れば道理が引っ込む」というけれど、今、起きている不正は「トップの無理が通れば、現場の道理が引っ込む」という状態で、トップが頭を切り変えない限り、繰り返されるのは悲劇? あるいは喜劇だ。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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