2016年8月22日付の当コラム記事については、例によって賛否両論のコメントをいただきました。大学名差別というもの、往々にして感情論や個別事例に引きずられることがあります。よくあるのが、中堅クラスの大学の採用実績。
「ほら、あるじゃないか。だから大学名差別など過去の遺物だ」
「どうせ、コネ採用。あるいは、体育会系でものすごく優秀な学生に違いない」
などなど。前者は、採用実績があるから大学名差別がない、というのは飛躍しすぎです。後者は当て推量にすぎません。
今回は、公開されたデータに基づき、企業が採用した大学名の変遷を検証します。
食品会社と鉄鋼商社を例に
『就職四季報』は東洋経済新報社による企業データ集です。1981年から刊行され、分冊化などの変化をしつつ、現在もなお続いています。この『就職四季報』に採用者数や採用実績校が収録されています。
どこまで回答するか(あるいは無回答とするか)は企業次第。残念ながら、公的機関ではないということで、無回答で済ませる企業も一定数あります。とはいえ、各企業が回答した採用実績校の変化をたどると、前回ご紹介した「卒業年次による学歴フィルターの振れ幅」が見えてきます。
今回、私が選択の基準としたのは「採用者数が多い(就職氷河期でも30人前後)」「工学部系採用が少ない」の2点。採用者数が少なすぎると、『就職四季報』での扱いも小さくなってしまい、比較ができません。また、工学部系採用が多いメーカーだと、文系出身の総合職・一般職が相対的に少なくなり、こちらも比較が難しくなります。
あれこれ検討して、取り上げたのは阪和興業とカゴメの2社。阪和興業は鉄鋼の専門商社、カゴメはトマトケチャップなどを中心とした食品メーカーです。消費者に馴染みのあるカゴメに比べて、阪和興業の一般的な知名度は低いと言わざるを得ませんが、鉄鋼業界では知らない人がいない、大きな商社です。
この2社は、学生が売り手市場のときはもちろんのこと、就職氷河期でもきちんとデータを公表しています。それらを、両社が採用において大学名差別をしていないという前提で、客観的なデータとして取り扱います。前回にも書きましたが、世に言われている大学名差別というものは、学生側の要因や結果論という側面もあるので。
まず、1991年の売り手市場データを見てみましょう(なお、以下、年表示は各年3月卒業者の就職データであり、『就職四季報』の掲載年度とは異なります)。
同年(就職率81.3%)の売り手市場のとき、阪和興業は157人、カゴメは103人を採用しています(なお、1990年代当時は、採用者数・採用実績校に短大も含まれていました)。就職率が1980年代以降で史上最高となった1991年の両社の採用実績校はこちらです。
阪和興業(1991年)・採用者数157人(4年制大学卒は男59人、女41人、計100人)=早稲田・金沢・南山・滋賀各3、筑波・高崎経済・中央・明治・富山・大阪府立各2、東北・千葉・埼玉・東京都立・東京水産・横浜市立・慶応・青山学院・立教・武蔵・成蹊・名古屋工業・和歌山・神戸商科・同志社・関西学院各1ほか、計39校
カゴメ(1991年)・採用者数103人(4年生大学卒は男70人、女3人、計73人)=早稲田7、明治5、名古屋4、北海道・横浜国立・九州・上智・同志社・関西・南山各3、千葉・広島・静岡・学習院・東京理科・関西学院・立命館各2、ほか、合計37校