今、この原稿を8月の東京で書いています。いつもそう思うのですが、東京は、気候的にかなり過酷な都市です。
まずは、夏のこの暑さ。私が東南アジアに住んでいるという話をすると、たいていの人は「暑いでしょう」と言いますが、東京の8月は東南アジアを遙かに凌駕します。
案外しのげるプノンペンの暑さ
そもそも東南アジアは、8月が1年で一番暑い時期ではないため、この月にカンボジアやフィリピン、シンガポールなどを訪れた人は「東京より涼しい」と感じます。
カンボジアのプノンペンでは、一番暑い4月、気温的には東京の8月よりも高くなります。日光がものすごく強いため、日なたに出ると、自分がテリヤキになっている気分になります。
しかし、日陰に入るとそうでもない。東京の8月の、蒸し風呂のような逃げ場のない暑さとは違います。
これはおそらく、エアコンの普及率とも関係しているのでしょう。まだエアコンが入っている建物の少ないプノンペンは、温風機のようなエアコンの室外機が少ないため、たぶん空気が東京ほどには熱せられないのです。
さらに台風まで来るので、東京の夏は本当に過酷です。
春は花粉、初夏に梅雨、冬は極寒と、1年を通してつらい時期にたびたび見舞われる東京。重度の花粉症の私にとって、プノンペンより東京が過ごしやすいのは5月、7月、10月くらいしかありません。3勝9敗。しかも、年がら年じゅう気温30度以上のところに住んでいると、暑さに慣れて、エアコン要らずの身体になるので便利です。
日本には「四季の恵み」という言葉があります。変化に富んだ気候であるがゆえに様々な農作物、海産物がとれ、季節ごとに咲く花をめでたり活動する動物を見ることができ、ビーチから雪山まであらゆる風景を見ることができます。
一見結構ずくめのようでいて、そこには、労働者が過酷すぎる労働条件の下に働き、消費者が非常にコストパフォーマンスの高いサービスを享受する「働くには最低の国、生活するには最高の国、日本」の基底に通じるものがある気がします。
日本のブラック労働の源泉は、この過酷な気候にあるのかもしれません。(森山たつを)