政府は、来年の通常国会に提出する法改正案の中に、待機児童の問題を解消すべく、育児休暇の期間延長などを盛り込みました。また、経済対策として「雇用保険料の引き下げ」も実施される見通しです。これは個人消費を喚起するためで、現在の雇用保険を運営する積立金が財源とされるようです。「雇用保険」とは、ご存知の通り、失業状態となったときに一定額のお金を受け取ることができる保険制度です。今回は、その雇用保険に未加入だった場合、一体どうすればいいのか? その対処法を、ご相談のエピソードをもとに解説いたします。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=失業保険がもらえないと困ります
2年勤めた会社を退職することになりました。退職後は地元に帰る予定です。今の会社は社員が15人しかおらず、とても小さい会社です。そこで、退職するにあたって失業保険の手続きなどを行おうとしていたのですが、なんと会社が雇用保険に入っていないことが発覚しました。地元ですぐに仕事が見つかるとも思いませんし、失業保険がもらえないと困ります。なんとかする方法はないのでしょうか。小さな会社なので少し大雑把なところがあるとは感じていましたが、保険に未加入なんて許されるんですか?
弁護士回答=手続きで給付受けられる見込みが
雇用保険は、5人未満を雇用する農林水産業を除き、労働者を雇用しているすべての事業に適用されます。したがって、相談者がお勤めになっていた会社も、雇用保険の事業の対象です。そして、相談者は、雇用保険法6条に定められた適用除外者(例えば週の労働時間が20時間未満などの方については対象外)でなければ、雇用保険者としての資格があります。
このとき、仮に事業主が届け出や保険料納付の手続きを怠っている場合でも、一定の手続きを行うことで、失業手当を受け取ることができます。したがって、相談者のケースでも失業給付を受けられる見込みが十分にあります。
受け取るための手続きとして、まず相談者が、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長(ハローワーク)に自分が雇用保険の被保険者であることの確認を求める必要があります。そのために、まずはハローワークに相談することから始めるとよいでしょう。なお、被保険者期間は確認の日からさかのぼって2年間と制限されますので、すぐに手続きを始めたほうがよいです。
失業手当として得られる具体的な給付額や給付期間は、退職時の年齢や勤続年数などで定められます。次の就職までに必要な金額には個人差があるかと思いますが、仕事が見つかるまでの生活費として十分な額が支払われる場合も多いです。
今後の生活のために、ぜひとも手続きを始めることをお勧めします。
事業主が怠ると罰則が
公共職業安定所は、事業主が雇用保険の手続きを怠っていた場合に、過去の保険料を徴収することができるとされています。また、事業主が雇用保険の手続きを怠ることは、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金にあたる行為です。小さい会社だからといって保険料の納付を免れられることにはなりません。結局は払わなければならないお金ですし、怠った場合には処罰されるおそれがあるので、事業主のためにも、きちんとするように促すのがよいでしょう。
雇用保険は、労働者の保護を目的とする制度ですので、それが会社の怠慢のせいで利用できないというのは、あってはならないことです。しかし、特に小さい規模の会社などでは、このように雇用保険に未加入の会社というのは少なからず存在するのも事実です。
例えば、給与明細をみて「雇用保険料」が差し引かれているかどうかを調べるなど、ご自身で確かめられる方法もあるので、一度やってみるのも手ですね。
先に述べた通り、雇用保険にさかのぼって加入できるのは2年間と決まっているため、できる限り早くハローワークで手続きを始め、地元での再出発にお役立てください。
ポイント2点
●雇用保険は、5人未満を雇用する農林水産業を除き、労働者を雇用しているすべての事業に適用され、事業主が雇用保険の手続を怠ることは、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金になる
●事業主が届出や保険料納付の手続を怠っている場合でも、一定の手続きを行うことで、失業手当を受け取ることができる