先日、文部科学省の学校基本調査の速報値が発表されました。2016年春の大学卒業者の就職率(卒業者総数に対する就職者の割合)は74.7%。2000年代では過去最高、バブル崩壊後の1993年(76.2%)に比肩する数値であり、学生有利の売り手市場が続いています。
そんな売り手市場にあっても、学生が気にするのは大学名差別。というわけで今回のテーマは「大学名差別の最新事情と隠れ要因」です。
企業がターゲットを下げている
大学名差別は、当連載でも何度か書きましたが、もう一度、大まかな構造をまとめておきます。
(1)優秀な学生を企業が欲しがる
(2)難関大学ほど優秀な学生が多いし、結果としていい企業の内定者も多い。だから、就活ナビサイトでは、学歴フィルターをかけて難関大の学生が優先して説明会・セミナーなどに参加できるようにする(中堅以下の大学所属学生には満席表示を出す)
(3)その結果、難関大の学生ほど就活へのモチベーションが高い(インターン参加、社会人慣れ、新聞・書籍・就職四季報などの購読など)
どうしても入試の偏差値が高い大学の学生が採用において優遇される流れができてしまいます。
その最新事情としては、意外なほど、大企業中心に多くの企業がターゲットを下げていることです。
早慶上智(早稲田、慶応義塾、上智)クラス中心だった企業は、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政。最近は学習院を入れてG・MARCHとも)・関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)クラスに加え、日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)・産近甲龍(京都産業、近畿、甲南、龍谷)クラスまで下げ、MARCH・関関同立クラス中心だった企業は、日東駒専クラスを飛び越えて、大東亜拓桜帝国(大東文化、東海、亜細亜、拓殖、桜美林、帝京、国士館)・摂神追桃(摂南、神戸学院、追手門学院、桃山学院)クラスまで下げるところも。
なんで大学のランクを下げるか、といえば売り手市場だから。ランクにこだわりすぎると採用予定数に到達できないからです。採用担当者に取材をすると、
「下げる気はなかったが、競合他社がうちのターゲット校にまで下げてきて、内定者を例年以上に持っていかれた。だから下げるしかない」
などの話がよく出てきます。
年次によって差別に「振れ幅」
大学名差別については、取材していくうちに、あまり表に出ない「隠れ要因」があることに気づきました。
「隠れ要因その1:卒業年次による学歴フィルターの振れ幅」
前述の通り、ここ数年、売り手市場が続き、企業側は採用ターゲットの大学ランクを下げています。
「学生が有利な売り手市場の年であれば、就職しやすく、学生が不利な就職氷河期の年であれば、就職しにくい」
これが大学名差別を促す隠れ要因です。何を当たり前のことを、とお叱りを受けそうです。運悪く就職氷河期にぶつかった世代からすれば、MARCHクラスの出身者であっても、「うちの大学は不当に差別された」と感じるはず。逆に、売り手市場に当たった世代は、日東駒専クラス出身者であっても、多くは首尾よく内定を獲得して「差別などなかった」と感じるに違いありません。
ところが、SNSなどネットの世界になると、この当たり前の事実がないがしろにされがちです。
ネットの世界では、大学名差別が話題になるたび、一般人も含めて多くの関係者がこの話題に参入します。その際、卒業年次を含めた個人属性を開示して投稿する物好きはほとんどいません。いつのものとも知れない個人の経験にのみ基づいて論じます。そういう、悪く言えば感情論が、いつの間にか事実にすり替わってしまうことだってよくあります。しかも、ネットには、古い記事がいつまでも残ります。それがはるか昔の就職氷河期世代のものだったとしても、「大学名差別」「学歴フィルター」という見出しだけで読まれてしまいます。古い情報であっても、読んだ学生には、最新情報であるかのように受け取られてしまうのです。
「隠れ要因その2:『夢』という名の悪い魔法」
2016年8月1日付の本コラムでも書きましたが、2000年代に入ってから「夢」を至上とするキャリア教育が小中高で盛んになりました。大学もキャリア教育に力を入れますが、小中高の影響もあってか、やはり「夢」中心。
ところがこの「夢」というもの、悪い魔法とでも言いますか、勘違いする学生の続出を招きます。
たとえば、日東駒専クラス。私の出身大学である東洋大の学生が新聞社を志望したとしましょう(実際、そうした相談を受けたこともあります)。東洋大は新聞社への就職者が一定数いる大学です。大学ランクが低い、ということはありません。が、その学生が、
「新聞社志望です。でも、新聞は読んでいません。だけど、クリエイティブな仕事がしたいです」
ごめん、それは無理。
「夢」破れて差別あり
こういう無茶ぶりをしてくる学生、上は早慶から下は大東亜拓桜帝国クラスまでまんべんなくいます。でも、大学のランクが低いなら低いで、新聞を読む以外にもやらなければならないことはいくらでもあるはず。彼らに話を聞いていくと、ほぼ間違いなく、「夢」が出てきます。悪い魔法だなあ、「夢」。そうした「夢」が破れて、大学名差別があるからだ、となるわけです。
「隠れ要因その3:適性検査・行動量格差」
適性検査は、ちょっと問題を見て、情報をかき集めてみれば、「非言語分野、それも、集合とか推論とかにややこしい問題が出るから、そこを勉強しておこう」という結論にたどり着くはずです。傾向と対策は明白。
なのにランクが下にいくほど、適性検査の非言語分野の得点は下がっていきます。大学側もそこに気づいていて、早めに対策講座を開くのですが、学生は甘く見てろくに勉強しようとしません。
適性検査対策だけではありません。「行動量」も同様の傾向があるのです。
大学ランクが下がっても、行動量の多い学生は一定数存在します。そもそも、大学名差別の前提条件である「難関大学の学生ほど結果論として就活へのモチベーションが高い」っていっても、インターン参加、社会人慣れ、新聞・書籍・就職四季報の購読などの行動が彼らの専売特許か、といえばそんなことはありません。どの大学のどの学生でもやろうと思えばできることばかり。
ところが、中堅ないしそれ以下の大学の学生となると、大半があれこれ理屈をつけて行動量を増やそうとしません。現実には、行動量格差が大学名差別につながっています。
というわけで、私としては、
「隠れ要因その4:落ちた学生の言い訳」
として、
「要するに、大学名差別云々という学生、自分の努力不足を認めたくないんでしょ? だから、言い訳として大学名差別を使っているだけじゃないの? 3年生で大学名差別をあれこれ言うわりに何も行動しないのは、自分が傷つきたくない、失敗したくない、その言い訳でしょ?」
と思うわけです。
ときどきそういう話をしますが、結構な確率で学生に嫌われます。嫌われるとわかっていて、つい話してしまう今日この頃です。(石渡嶺司)