「人・本・旅」――人間が賢くなるために必要なのはこの3つだと僕は思います。
たくさん人と会い、たくさん本を読み、たくさん旅をする(≒現場に行く)ことで人生が豊かになる。大切なお金はそういうことに優先的に使いたいと思います。
雪の金閣寺をわが目で
大学時代を振り返ると、「人」に会うのは無料でした。クラスメートと話をするのにお金はかかりませんし、僕の大学ではあまりきちんと出席を取らなかったので、興味をもった講義は勝手にもぐり込んで何でも聞くことができ、偉い先生でも面白い先生でも、いくらでも接することができました。
旅は「現場に行く」と言い換えてもいいかもしれません。自分の目で物事を見て、自ら経験することを広く「旅」ととらえていいでしょう。
たとえば、何かの本を読むと、雪の日の金閣寺はめちゃめちゃきれいだと書いてある。すると、どうしても見たくなります。ある朝、雪が降る。僕は「溶けないうちに」都大路に飛び出し、金閣寺に向かいます。「ああ、これが......」とわが目でその美しさを堪能して大いに満足するわけです。そんな小さな旅を求めて、市電でどれほど京都市中をめぐったことでしょう(自転車は、その頃駐輪場が整備されていなくて、停めるところに苦労したものです)。
1回生の夏休み、僕は1か月をかけて北海道を回りました。きっかけは雑誌で見た日勝峠の写真と記事。十勝平野を一望に見下ろすこの峠に寝転んだら心が癒されるというので、無性に行きたくなって、寝袋をもって一人で津軽海峡を渡りました。
日勝峠から然別湖へ。湖の対岸には頂が二つ連なる天望山が望め、その山容が朝日を浴びて湖面に映るとまるで「くちびる」のように見えるというので、ぜひとも見たいと思いました。よく見えそうな場所を探して寝袋に入って夜を明かしたらましたが、えらく寒かったことをよく覚えています。