成功長寿企業に、もっているお金の運用について聞いたところ、「していない」が3分の2を超えました。
第1位 していない(67%)
第2位 株式投資
第3位 不動産投資
これは長寿企業の真骨頂ではないでしょうか。あくまでも本業で稼ぐ姿勢を貫いています。
周りの悲劇を見てきたゆえ
長寿企業は、その長い経営の過程で、多くの経営者仲間や取引先を失ってきたに違いありません。一代で築いた財産を一夜にして紙くずにした例も、少なからず見てきたことでしょう。
「していない」と答えた企業は、原則として、元本保証の資産運用しかしていません。国債や社債などですが、いまは金利がほとんど見込めない時代なので、日本国内においては、リスクを取らないなら資産が新たなお金を生むことはありません。長寿企業は、資産運用については非常に保守的ですから、手を出さない企業が大半を占めているのでしょう。
長寿企業には、長い経営の年月のうちに貯えてきた資産が相当あります。現金も、証券も、不動産もあります。それでもやらないのは、代々の経営者が後継者に財テク禁止を伝えてきたからです。だからこそ、いま3分の2の経営者が「していない」と答えるのです。「浮利を追わず」とは、有名な住友家の家訓の一節です。
投資は徒労と知る
投資をしていると答えた企業では、対象は株式と不動産でした。株式は、取引先から保有を依頼されると断りにくい面もあり、純粋な資産運用にはなっていないケースもあるでしょう。また、不動産は、自社の敷地用に購入した物件は資産運用に含まれません。投資はあくまでも転売用として買った土地、建物のことです。
続いて、資産運用をしていると答えた経営者に、その成果を聞いてみました。
大幅な利益を出せた企業はわずか4%。利益が確保できたのは21%でした。どちらでもない、損も儲けもなかったというのが50%を占めています。大幅な損失は3%、小幅な損失は20%ですから、全体の23%は損を出し、損得なしの50%と足すと73%はやらないほうがよかった、という調査結果になっています。なんと割に合わないものでしょうか。
多くの長寿企業は、会社も、個人も、長い歴史の中でしっかりと富を蓄積してきており、資金的にも、時間的にも余裕があります。したがって、焦って儲けようともせず、余裕資金で事業を行っているので、いまなお経営が継続しているのです。つまり、そういう余裕の資金であっても投資となると儲けられない。ましてや焦って行った投資では儲かるはずがない、と言えます。資産運用をしない経営者は、「どうせくたびれ儲けに終わる」ことを感覚的に知っているのでしょう。
大王製紙の井川意高前会長は、初めて行ったカジノで儲かって、それからのめり込んだそうです。まさに「触らぬ神に祟り無し」。大王製紙は1943年の設立ですから、今年で73年。どうしてこんなことになったのでしょうか。
長寿企業に限らず、堅実な経営をしている会社は財テクには不熱心です。あなたが勤めている会社がもしそうだとしたら、あなたもせいぜいNISAぐらいにしておいたほうが、社内で悪評が立つこともないのではないでしょうか。(浅田厚志)