「谷」越え「海」越え...二度失敗 不屈の「天才」社長に三度目は

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いつまでも上昇を続けると

   それだけの力量がある彼が、二度にわたって失敗したのはなぜだったのでしょうか。H氏は率直にこう話してくれました。

   「一度目は人、二度目は銀行でした。1社目は、創業からの右腕的存在が突然辞めてしまってどうにもならなくなり、2社目は、いよいよこれからという時に銀行に資金を引き上げられてしまい......。僕は、なぜかこれからという時に、肝心要の存在に逃げられてしまう、悲しい宿命を背負った男なのです」

   この話を聞いてひとつ思い出したことがありました。あるベンチャー企業フォーラムで聞いた、起業から上場に漕ぎつけその後も順調に成長を続けている経営者の、成長マネジメントの心構えに関する言葉です。

   「ベンチャー経営のスタートアップは、一般企業の経営とは違った経営姿勢が必要です。一言で言えば、『知力:度胸=1:9』みたいな。とにかく肝を据えて爆発的に前に進んでいく意志とパワーがなければ、起業同志もついてこなければ資金も集まりません。皆、あなたの夢の実現力に賭けて集まってくるのですから」

   なるほどこの言に従えば、H氏は恐らく夢実現の可能性を周囲に伝える力には長けているのだと思わされるところです。しかし問題はその次のくだりです。

   「間違えてはならないのは、スタートアップ期を過ぎてある程度のところに来たら、運行を安定させなくてはいけないということ。すなわち今度は、『知力:度胸=9:1』に変えるのです。飛行機と一緒です。離陸時の飛行機のパワーは、どこまでも飛んで行けそうで人を魅了する力がありますが、そのままの勢いで上昇を続けたら誰もが不安になり、墜落を危惧すると思いませんか。どこかで安定した飛行に移らなくてはいけないのです」

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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