面白いと思ったことにお金を使う(ライフネット生命保険会長・出口治明)

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

「会話についていけへん」

   振り返ると、当時の僕は自分に自信がもてない田舎出身の学生の一人でした。文学や歴史などについては、多少は、本を読んでいましたが、社会科学系の知識はまったく欠いていました。東京や大阪出身の学生は高校時代からマルクスやレーニンに親しんでいて、堂々と自分の考えを述べるのに、自分は何ひとつ意見を言うことができません。

「会話についていけへん、カッコ悪い!」

   そう思って、マルクス、レーニンを読もうと岩波文庫をまとめて買い込んだりしました。さらに、ヘーゲルやカントも知らなければと思って、当時中央公論社から刊行されていた『世界の名著』をもとめたりして、読みふけりました。

   さらに、友だちとしょっちゅう議論をしました。議論をすれば、相手から違うボールが飛んできて、それを受け止めることで、自分がそれまで考えたことがなかったような多様な世界が見えてきます。本を読んで蒙を啓かれるだけではなく、友だちとの交流によっても「そうだったのか!」と発見をする機会をたびたび得ることができました。

   そんな調子ですから、月々の仕送り・奨学金が待ち遠しくなるのも当たり前。事態が逼迫すると、何冊かの本を抱えてよく古本屋に駆け込んだものでした。

   あと3日で仕送りが届くので、それまで売らんといてください、必ず買い戻すので――そんなふうに店主に頼み込んで、「つなぎ融資」を受けることが多々ありました。

   面白いと思ったことにお金を使うという僕のスタイルは、大学時代、読書にのめり込むことによって形づくられたのでした。(出口治明)

出口治明
出口 治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険株式会社創業者。1948年三重県生まれ。京都大学卒業後、1972年に日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命保険株式会社を開業。著書に『生命保険とのつき合い方』(岩波新書)、『働く君に伝えたい「お金」の教養--人生を変える5つの特別講義』など。
2018年1月から、立命館アジア太平洋大学学長、学校法人立命館副総長。
姉妹サイト