面白いと思ったことにお金を使う(ライフネット生命保険会長・出口治明)

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   京都で大学生活を送るようになった僕は、本にお金を使うようになったのです。

   法学部の学生でしたので、有斐閣の法律学全集などにも目を通しましたが、そのほかにも自分が興味をもった本は手当たりしだいに買って読みました。全共斗運動で大学が封鎖されていたときには1日に15時間ぐらい、読書に没頭したこともありました。

  • 何にお金がかかるかって……
    何にお金がかかるかって……
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いちばん高い買い物は

   いちばん高い買い物だったのは、岩波の「講座」シリーズでしょうか。在学中に「世界歴史」の刊行が始まり、全31巻、1冊1000円(当時の1か月の授業料と同じです)ぐらいするのを次々と買い求めました。

   本は、役に立つから、あるいは将来役に立ちそうだから、という理由で読むわけではありません。僕の場合は、ただただ面白いから読むのです。

   ギリシア悲劇にも、そうやって出合いました。そこには「神様ですら自分の言ったことは変えられない」という約束が貫かれていて、そのために悲劇が起きます。

   たとえばアポロンという予言の神はトロイアの王女カッサンドラと恋に落ちます。なんとか王女の歓心を買おうとして「予言の力」まで与えてしまう。それでもカッサンドラはアポロンに身を任せようとしません。アポロンは、激怒するものの、一度言ったことは変えられませんから、カッサンドラの予言を誰も信じることがないようにしてしまいます。そこでカッサンドラは、「トロイの木馬」による国の破滅を見通しながら誰からも信じてもらえないという悲劇に見舞われるのです。

   人間の喜怒哀楽が引き起こすドラマはなんと面白いものか――『ギリシア悲劇全集』(人文書院。後に出た岩波版も買い求めました)のページをめくりながら、僕はたびたびそう感じました。それに比べて、現在の政治家の言葉の何と軽いことよ、と思わずにはいられません。

出口治明
出口 治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険株式会社創業者。1948年三重県生まれ。京都大学卒業後、1972年に日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命保険株式会社を開業。著書に『生命保険とのつき合い方』(岩波新書)、『働く君に伝えたい「お金」の教養--人生を変える5つの特別講義』など。
2018年1月から、立命館アジア太平洋大学学長、学校法人立命館副総長。
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