京都で大学生活を送るようになった僕は、本にお金を使うようになったのです。
法学部の学生でしたので、有斐閣の法律学全集などにも目を通しましたが、そのほかにも自分が興味をもった本は手当たりしだいに買って読みました。全共斗運動で大学が封鎖されていたときには1日に15時間ぐらい、読書に没頭したこともありました。
いちばん高い買い物は
いちばん高い買い物だったのは、岩波の「講座」シリーズでしょうか。在学中に「世界歴史」の刊行が始まり、全31巻、1冊1000円(当時の1か月の授業料と同じです)ぐらいするのを次々と買い求めました。
本は、役に立つから、あるいは将来役に立ちそうだから、という理由で読むわけではありません。僕の場合は、ただただ面白いから読むのです。
ギリシア悲劇にも、そうやって出合いました。そこには「神様ですら自分の言ったことは変えられない」という約束が貫かれていて、そのために悲劇が起きます。
たとえばアポロンという予言の神はトロイアの王女カッサンドラと恋に落ちます。なんとか王女の歓心を買おうとして「予言の力」まで与えてしまう。それでもカッサンドラはアポロンに身を任せようとしません。アポロンは、激怒するものの、一度言ったことは変えられませんから、カッサンドラの予言を誰も信じることがないようにしてしまいます。そこでカッサンドラは、「トロイの木馬」による国の破滅を見通しながら誰からも信じてもらえないという悲劇に見舞われるのです。
人間の喜怒哀楽が引き起こすドラマはなんと面白いものか――『ギリシア悲劇全集』(人文書院。後に出た岩波版も買い求めました)のページをめくりながら、僕はたびたびそう感じました。それに比べて、現在の政治家の言葉の何と軽いことよ、と思わずにはいられません。