なりたい自分になれなくても 事件に思う「夢」実現教育の是非

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浴びた脚光を忘れられず

   たとえ就活が順調でも、入社してからもなお小さないらだちを抱え続ける社会人が存在します。特に多いのが体育会系。それも、メジャー競技(野球、柔道、剣道、バレーボール、陸上、ラグビーなど)のレギュラー、準レギュラークラスに多い気がします。

   レギュラーないし準レギュラーでありながら、社員選手として社会人チームに所属しないということは、社員選手として声が掛からなかったか、自分から見切りをつけたか、のどちらかです(あるいは両方)。

   未練を断ち切って社員として頑張る、ということであれば問題ありません。そうやって見切りをつけられる体育会系は、どうもマイナー競技(弓道、フェンシング、馬術、射撃、競歩、女子サッカーなど)に多い気がします。そこには、競技にスポンサーがそれほどつかない、社会人チームも多くない(社員選手の枠自体がそれほどないので嫌でも見切りをつけるしかない)、マイナー競技ゆえ目立たないことに慣れている、などの事情が影響しています。

   一方、メジャー競技だと社会人チームも多く、そもそもメジャー競技ゆえ、大学生であっても脚光を浴びることがしばしばあります。プロに転向する、ないしは社員選手としてスポーツ選手のキャリアを歩む、ということであれば話は別ですが、問題は社員選手としては誘われず、就職した場合。

   脚光を浴びたことは本人にとって忘れられない、いい思い出です。いい思い出は客観的には「麻薬」と言ってもいいでしょう。会社でいざ仕事を始めてみれば、地味な作業ばかりですから(新人だから当然ですが)、日の当たることはありません。

「なぜ、学生時代あんなに目立っていた自分がこんな雑用やっているのだろう?」

   そのように考えだしたら危険。そうした小さないらだちが、「本当はこんなところにいるはずじゃなかったのに」という鬱屈につながってしまいます。

   ある流通企業は「体育会系ならいいだろう」とメジャー競技の副キャプテンだった学生を採用しました。元気がいいので目立つ、という理由で採用担当部署に配属したのですが、これが大失敗。企業セミナーで学生相手に話をさせると、ひたすら自分の部活自慢。「頑張ればできる」との精神論に、文系学生だけでなく体育会系もドン引きです。事務処理能力は低く、それを改善する意欲もありません。

   ある日、合同企業説明会イベントに駆り出すと、人員整理や学生からの相談受け付けなどを全て他の社員に押し付け、自分は結婚相手やその母親とLINEなどで遊んでいました(本人いわく「家族の事情」)。これが人事部長にばれて、翌年、閑職に異動。その半年後に退職してしまいました。

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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