若き成功者たちが語る失敗体験 どん底で見つけた再起の芽とは

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   20~30代の起業熱はいまだ盛んなようで、私が定期的に開催し講師を務めさせていただいている起業セミナーも、毎度満席の大盛況が続いています。

   そんな折、株式上場やそれに近い成功を収めた若手起業家たちに失敗談を語ってもらい、そこから企業経営の勘所を学ぼうという趣旨の企業カンファレンスが開かれ、成功者の貴重な失敗体験をじかに聞くことができました。

ある日パートナーが退職し

スタッフに起業の思いは共有されているか
スタッフに起業の思いは共有されているか

   初めに登壇されたのは、アパレル輸入業30代前半のH社長。ビジネスモデルを入念に策定し事業を立ち上げ、昼夜なく働き続けてようやくある程度の軌道に乗ったところで、突如パートナー的存在の役員が退職したといいます。そして気がつけば、彼に主要取引先を根こそぎ持って行かれていたというシビレるお話。

「最初は何が起きたのか、どうしてこうなったのか全く分かりませんでした。訴訟も考えました。でもそんな余裕はない。とにかく食べるために、何かを始めなくては、と途方に暮れる日々を送る中で、ある取引先から社長の直筆メッセージ付きでお歳暮が届けられたのです。その優しさに触れ、本当にうれしくて、自分の至らなさに気づかされました。振り返ってみたら、自分の起業は社長という仕事に対する憧れと金儲けが目的でした。そこには、優しさのかけらもなかったかもしれない。それがパートナーの裏切りも生んだのだと思い当たりました。人は人の優しさを感じる時が一番うれしいのだ、ということを置き去りにしてきたのです」

   H社長は再度立ち上がり、人の役に立つ仕事を、と途上国と日本を結ぶビジネスに取り組み、優しさを忘れないスタンスを組織の内外に基軸として置き、事業を大きく拡大させさました。

「鬼も必要」とうそぶき

   続いて登壇したのはITベンチャーのK社長。20代で起業し現在30代半ば。起業時にはサイト構築の独自技術が評価され、注目の的に。5人ほどの所帯だったものが、ここがチャンスとばかりに一気に営業スタッフを増やし、20人体制に移行します。しかし、急激な組織拡大に管理が追いつかず、既存顧客からはクレームの嵐で、社員は疲弊しました。それでもなお体制の立て直しを図ることなく新規顧客獲得の尻を叩き続け、気がついてみれば年間退職者が総人員を上回るという悲惨な状況に陥っていました。

「結局その1年間で、自分以外の役員は全員入れ替わりました。私の強引なやり方についていけず愛想を尽かして辞めた役員は、『社長が悪魔に見える』と吐き捨てるように言い残して去って行きました。その時は、悪魔は『鬼』の言い換えと勝手な解釈をし、事業発展には『鬼』も必要、と気にも留めていなかったのですが、その後も社員が続々辞め『金儲けのことしかアタマにない社長が嫌だから辞める』と直接言われるに至って、ハッと気づきました。世の役に立つ技術を広めるための起業が、いつしか社員を金儲けの道具としか考えていないと思われても仕方ないような経営に変わっていたのです」

   K社長は悪いイメージが染みついてしまった会社をいったんたたみ、独自技術を持ったまま新会社をスタートさせました。新しい体制では、起業の理念を社内に徹底しつつ、社員の思いやキャリアプランを大切にするよう心がけ、3年で上場にまで漕ぎつけました。その間、退職した社員はわずか3人だったといいます。

   3人目に登場したのは40代半ばのITベンチャーS社長。その日の登壇者では一番のベテラン経営者で、前述の2人の話を受けて「自分にも同じような経験がある」とした上で、次のような話をしてくれました。

俗心に操られた起業は

「とにかく社内外からの批判を受け入れること、それが経営者として成長するための原点です。仕事が減ったとか、有能な社員が辞めたとか、批判が形として現れたすべての原因は社長自身にあるという『社長責任論』を自分の中で徹底すること。そして、事あるごとに自らの起業原点に立ち返る機会を作ることです。そうすることで、H社長がお話しされたような『社長になりたかっただけ』『お金儲けがしたかっただけ』という入口での誤りや、K社長のような、起業時点での思いを忘れたがための過ちに、思いを致すことができるのです。私の周囲にも、そこに気づくことなく廃業した起業家仲間が実に多いのです」

   私自身、若い起業家の方々とお話しする機会に時折感じたのが、やはり「この若い経営者は何がしたいのだろうか」という疑問でした。彼らから共通して聞こえてくるのが、「会社を大きくしたい」「目標は上場」という類の言葉なのです。それらの言葉の裏には、3人の登壇者が戒めるような、「大きい会社の社長として名を馳せたい」とか「上場して莫大な創業者利益を得たい」といった俗な功名心が見え隠れします。そういう彼らがその後どうなったのかといえば、自ら思い描いたようにはうまくいっていないケースがほとんどなのです。

   俗心に操られた起業は成功を遠ざける――この企業カンファレンスで聞いた話は、失敗を経て成功へと導いた起業家だからこそ語れる、貴重な経験談であると思いました。私の起業セミナーでも、「起業の心構え」の一つとして加えさせてもらうことにします。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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