俗心に操られた起業は
「とにかく社内外からの批判を受け入れること、それが経営者として成長するための原点です。仕事が減ったとか、有能な社員が辞めたとか、批判が形として現れたすべての原因は社長自身にあるという『社長責任論』を自分の中で徹底すること。そして、事あるごとに自らの起業原点に立ち返る機会を作ることです。そうすることで、H社長がお話しされたような『社長になりたかっただけ』『お金儲けがしたかっただけ』という入口での誤りや、K社長のような、起業時点での思いを忘れたがための過ちに、思いを致すことができるのです。私の周囲にも、そこに気づくことなく廃業した起業家仲間が実に多いのです」
私自身、若い起業家の方々とお話しする機会に時折感じたのが、やはり「この若い経営者は何がしたいのだろうか」という疑問でした。彼らから共通して聞こえてくるのが、「会社を大きくしたい」「目標は上場」という類の言葉なのです。それらの言葉の裏には、3人の登壇者が戒めるような、「大きい会社の社長として名を馳せたい」とか「上場して莫大な創業者利益を得たい」といった俗な功名心が見え隠れします。そういう彼らがその後どうなったのかといえば、自ら思い描いたようにはうまくいっていないケースがほとんどなのです。
俗心に操られた起業は成功を遠ざける――この企業カンファレンスで聞いた話は、失敗を経て成功へと導いた起業家だからこそ語れる、貴重な経験談であると思いました。私の起業セミナーでも、「起業の心構え」の一つとして加えさせてもらうことにします。(大関暁夫)