暑い夏の真っただ中ですが、みなさん、体調のほうはいかがでしょうか。就寝中に、冷房をつけっぱなしにしてしまい、風邪を引いたりしていませんか。7月下旬といえば、学生さんは夏休み、特に就活生の方々はインターンシップに参加して、就職活動に励んでいる人も多いのではないでしょうか。
今回はインターンシップに参加した学生さんのエピソードをもとに、「学生が職場体験中に事故に遭ってしまったら」について考えていきます。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=倉庫の見学中に崩落物、もし学生が負傷したら?
まだまだ内定が遠い、就活生です。先日、ある会社のインターンシップに参加し、倉庫内を見学していたところ、積み上げ方が悪かったのでしょうか、突然段ボールが崩れ落ちてきました。幸い、近くに誰もいなかったので、けが人はいなかったのですが、もしインターンシップ中に今回のような事故が起きてしまい、学生がけがをしてしまった場合、学生側は治療費を請求できるのでしょうか?
弁護士回答=労災申請では「労働者」かどうかがポイント
相談者が、会社に治療費を請求する場合、まず民法上の不法行為として損害賠償請求を行うことが考えられます。ただし、民法上の請求の場合は、けがの原因に会社側の過失があったことを相談者側が立証しなければなりません(段ボールの置き方が悪かった、など)。証明は、会社側の職場環境とその安全にかける会社の配慮のレベルなども理解する必要があるため、そのハードルは結構高いです。
一方、民法上の請求とは別に、労働者災害補償保険(労災)を申請するという方法もあります。労災が適用される場合、民事上の立証も不要であり、また支払いも確実です。そのため、労災が適用されるかが今回の質問のポイントになります。労災の適用を受けるには、相談者が研修の態様から判断して労働基準法上の労働者とみなされる必要があります。
研修中の事故に対して、行政の解釈は、研修生が労基法9条の「労働者」に当たるかどうかという観点から、いくつかの判断を示しており、労働者として認められた造船会社で実習中の商船学校の生徒の例や、逆に、否定された工学部学生の工場実習の例などがあります。
会社の指揮命令下で働いているか
研修中に労災保険の適用が認められるためには、(1)研修生に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であり、少なくとも最低賃金法の規定を上回っていること、(2)実際の研修内容が、本来業務の遂行を含む研修期間中であり、(3)それらが使用者の指揮命令の下に契約上の義務として支払われているものであることが必要で、実際は、実態から判断されます。
簡単に言うと、一種の短期アルバイトのような、一時的にせよ会社の指揮命令下で働く場合は労働者に当たると考えられ、一方、賃金を支払うほどの労働の実体がなく、単に職場見学や職場体験程度であれば、労働関係にはなく、労働者とみなされないと考えられます。
相談者はインターンシップに参加し、倉庫内を見学していたということですので、単なる職場見学のような扱いに近いと思われますので、労災は認定されない可能性が高いでしょう。
まとめますと、インターンシップ中のけがについては、学生が労働者と認められれば労災からの補償が受けられますが、労働者と認められなければ、民事上の請求しかできないことになります。万一の事故に備え、事前に学生教育研究災害傷害保険(任意加入)への加入を検討されたり、インターンシップに行く会社が任意の傷害保険に加入しているかをチェックされてはいかがでしょうか。
ポイント2点
●会社に治療費を請求する場合、けがの原因が会社側の過失があったことを立証しなければならないが、そのハードルは高い。
●短期バイトのように、会社の指揮命令下で働く場合は労働者に当たると考えられるが、単に職場見学や職場体験程度であれば、労働者と見なされないと考えられるため、労災は認定されない可能性が高い。