「お金は人生を楽しくするための手段だ」というのが僕の持論です。
今の世の中、お金にまつわる話題というと暗めのものにかたよりがちですけれど、本来、お金は人が幸せになるために使うものですよね。このコラムでは、「私たちが幸せになるためにはお金をどう使えばいいのだろうか」という問いについて、若いみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
クレーのおしゃれな封筒に驚き
ビアスの『悪魔の辞典』によると、「お金(money)」とは、「使うとき以外は何の役にも立たない有難きお恵み」。悪魔がそう皮肉るような「しょーもない」ものなのです。やはり使ってこそのものなのですね。
自己紹介がわりに、僕のお金との「出合い」についてお話ししましょう。僕は三重県の片田舎で育ち、高校までは自らお金を使うような生活をしていませんでした。実家の周りは4、5軒の民家とあとは山。学校まで自転車で通学し、お金を使う場所がない。ですから、お金を使う機会ができて、お金を意識して生活するようになったのは、僕が大学に入った18歳のときです。
大学の近く、京都の百万遍の角にあった第一銀行(当時。合併を経て現在はみずほ銀行に統合)に口座を開きました。高校から卒業祝いにもらった印鑑で手続きをし、手持ちの2万円だったかを預けました。銀行からもらった封筒にパウル・クレーの絵があしらわれていて、「都会の銀行はなんておしゃれなんだ」と驚いた記憶があります。
その口座に家からの仕送りが月1万円、日本育英会と三重県上野市(当時)から奨学金が合わせて月1万3000円、振り込まれます。市電の回数券が100円(15円きっぷが7枚で5円割引)の時代、下宿代がたしか月4500円、授業料が月1000円でしたから、月の生活費は1万5000円ぐらいだったでしょうか。
これが僕の「お金を使う」生活のスタートでした。