知っておきたい発言の黄金比 アイデア出る会議仕切るには

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   数年前、雑誌やテレビで取り上げられたのを機に、その品揃えやディズプレイが話題となり、破竹の勢いで店舗拡大をしたインテリア雑貨店経営のT社。久しぶりに会合でお目にかかったH社長は、当時とは一転、手詰まりで売上が頭打ちだとお悩みの様子でした。

   「とにかくアイデアが出ない。もっともっと革新的な商品やサービス、店舗づくりを提供したいのだが、私一人のアイデアではもはや限界です。誰かいい人いませんか」という社長の話しぶりには、決して冗談ではないムードが漂っていました。

創造性をどうやって高めるか

どうすればアイデアがひらめくのか
どうすればアイデアがひらめくのか

   組織として新しいものをつくり出す能力、すなわちクリエイティビティ(創造性)はどのようにしたら高めることができるのかというテーマは、企業経営者の悩ましい問題として相談を受けることがよくあります。私は、お手伝いしている企業からそんな相談をお受けした場合には、ひとまずその企業の会議をのぞかせていただくことにしています。

   それというのは以前、ある経営者の話に、ひとつのヒントをいただいたからなのです。

   飲食店を皮切りに複数の新規事業を立ち上げ、一代で自社グループを売上1000億円の規模に育てた彼の会議運営のポイントは、「会議でたくさんのアイデアを出したいのなら笑いのない会議などやるな、を社員に徹底している」というものでした。

「新しいことに次々と挑戦する弊社のような事業では、会議はポジティブな雰囲気でなくてはダメです。時にネガティブな感情や言動が効果的な場合もあります。しかし議論をよくよく聞いてみると、どの会議でも必要のないネガティブな発言がかなりあるものです。不要なネガティブ発言を減らしてポジティブな発言を増やす努力をすれば、不思議とたくさんのアイデアが出ます。これは経験が教えてくれた事業を成功させる秘訣です。今も当社が心がけている会議とは、終わる頃には全員が笑っている会議なのです」

叩き上げ常務のひと言で

   かつて銀行員だった私にも経験があります。1990年代後半、金融危機の時代のことです。山一證券の倒産を機に高まる金融不安のさなか、私は外部出向から戻り本部営業部門に着任しました。営業現場では日々預金が流出し、まさしく経営危機。本部会議では流出を止める策をめぐる議論が繰り返されていましたが、これといった打開策が見つかることもなく焦燥感ばかりが募っていました。

   私はグループリーダーとして、営業関連の主要会議に出席していました。異動したばかりで、しかもどの会議でも最年少という立場にあり、ただでさえピリピリしたネガティブ感満載の雰囲気ですから、私のなりに内に秘めた思いつきレベルのアイデアはあったものの、とてもそれを意見として言い出せるような状況ではありませんでした。

   そんな折、営業担当のM常務を長とする営業推進会議が開かれます。M常務は叩き上げで、一見するとこわもてで部下に厳しい方でしたが、内面は明るくざっくばらんな性格でとても実直な方と聞いていました。会議が始まるとメンバーに開口一番こう告げました。

「僕は高卒でアタマ使わずに体だけ張ってやってきたクチだから、この危機を打開するアイデアなんか全然浮かばないのだよ。皆、とにかくどんどん意見を出してくれ。やれることは僕の責任でなんでもやる。一見くだらないと思えるアイデアでも、皆の知恵を集めればいいものが生まれると思うから、どんな些細なアイデアでも遠慮なく言ってくれ」

   それまでに出席した会議とは明らかに違う雰囲気に、私は「ここなら言える」と、思いきって温めていたアイデアについて発言しました。それは、当時38年ぶりのリーグ優勝を確実にしつつあり、全国的に大フィーバーを起こしていた地元横浜ベイスターズ球団の力を借りて、勝率連動のベイスターズ応援定期を発売して少しでも預金を戻せないか、というものでした。

   このアイデアを聞いた常務は、「なんで早く言わない。皆で協力してすぐにやれ!」と即決で大号令をかけてくれました。応援定期は、ベイスターズ・ブームに乗って発売とともに予想以上の話題に。新聞、テレビでも大々的に取り上げられて流出した預金が戻り始め、株価も上がって、それを機に経営危機を脱したのでした。

ロサダの法則とは何か

   元は私の思いつきとは言え、アイデアが形になった根源はM乗務の会議運営にあった、と今でも思っています。ポジティブな会議運営が思わぬアイデアを生み出すという事実を、身をもって体験した出来事でした。

   会議におけるポジティブ発言とネガティブ発言の比率に関しては、実はひとつの理論が存在します。ロサダの法則と言われるものがそれです。

   アメリカの心理学者マーシャル・ロサダは、60のマネジメントチームを対象にその戦略立案などの様子を観察し、コミュニケーションの中で使用された言葉のポジティブ・ネガティブの比率を分析。結論として、ポジティブな感情とネガティブな感情がおよそ3:1の比率で維持されることがパフォーマンスを最大化させるという理論を導き出したのです。

   なるほど、M乗務のコミュニケーションも、おそらくは無意識なのでしょうが、「優しさ:厳しさ=3:1」ではなかったか、と思い出されるところです。

   さて冒頭のH社長、私の話を聞いて「言われれば確かに、私にネガティブ発言が多いことは否定できません。でも指導を減らすわけには......」と。私は、「まずは3:1を意識して、徹底してポジティブ発言を増やしてみては」とだけ申し上げました。

   人一倍の経営手腕をお持ちの社長ですから、何か現状打開のヒントを掴んでくれるのではないかと思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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