みなさんは「求人詐欺」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「ブラック求人」と呼ばれることもありますが、実際の契約と違う内容を求人票に記載して募集を行うことを指します。実は、大手企業でもそういった求人が少なくなく、問題視する声も数多く上がっています。今回はそんな「求人詐欺」に法律上どんな問題があるのか、解説しましょう。(文責:「フクロウを飼う弁護士」岩沙好幸)
事例=転職サイトで見つけた勤め先の求人条件、嘘ばっかり
僕が今勤めている会社は、残業や休日出勤が当たり前で、業務に追われてばかりでろくに休憩も取れず、みんないつもイライラしていて職場の雰囲気も悪いです。3年我慢しましたが、もう限界だと思い、こっそり転職活動中です。
できればキャリアを生かして同じ業種で働きたいので、転職サイトなどで検索をかけると、「おすすめ企業」として、なんと今働いている会社が上がってきました。条件を見てみると「基本給25万円、残業代支給、年間休日110日以上、社員同士が仲良く笑顔の溢れる職場です」と書いてあったのです。
25万円の中にはみなし残業が40時間含まれていますし、それを超えても残業代は出ません。年間休日も100日以上もらっている人はおらず、求人に書かれていることはほとんど嘘です。そういえば、僕がこの会社に応募したのも、求人の条件が魅力的だと感じたからだったことを思い出しました。
こんな嘘ばかりの求人広告、詐欺にならないのですか?
弁護士回答=詐欺は難しいが別の法律に違反する可能性も
求人に書かれていることがほとんど嘘とはひどい会社ですね。
しかし、質問にあるような行為が詐欺に当たるかというと、ちょっと難しいかもしれません。詐欺は、人をだまして財物、または、財産上の利益を得るものですが、求人広告に書かれた内容がそのまま労働契約の内容になるとは限らないからです。
求人広告は、申込みの誘引、つまり、「この会社に応募してください」というもので、それに応募したからと言って、即労働契約が締結されるわけではありません。労働者が応募した後に、面接や説明会などがあって、そこで使用者が労働条件を説明して労働契約が締結された場合、そこで説明された労働条件が労働契約の内容になります。
つまり、質問者の労働条件が求人広告の内容と違っていても、それが面接や説明会で説明された内容であれば、質問者は納得の上で働いているということになってしまうのです。そうすると、求人欄に嘘を書いただけでは詐欺とはいいがたいということになります。
では、完全に合法かというと、職業安定法という法律に違反するかもしれません。この法律は、企業による労働者の募集等について規制している法律で、職業紹介に当たって労働条件を明示しなければならないと定められています。
なお、厚生労働省は、「求人詐欺」を行う企業に対して懲役刑を含む罰則を加えることを検討しております。具体的には、固定残業代などがある場合はきちんと明記するよう指針を作成することや、実態と異なる求人をハローワークなどに提出した企業に対する罰則の強化を検討しているとのことです。
契約前に説明された条件がすべて
上に述べた通り、求人広告に応募しても即労働契約締結とはなりません。最終的な労働条件が求人広告と違っていても、それが面接などで説明された労働条件であれば、労働者が納得した労働条件ということになります。
残業しても残業代を一切出さないといったような、それ自体が別の労働法規に違反する条件もありますが、単に求人広告と異なる労働条件というだけでは、労働法規に違反したとはいいがたいでしょう。
たとえ求人広告と違う内容でも、それに合意して労働契約を結んでしまえばその労働条件で働かざるをえません。また、労働は生活の基盤になるだけでなく、職場での人間関係がその人の人生に影響を与えるものです。そのため、労働関係のトラブルは、多くの人との人間関係にも大きな影響を与えかねません。
しかしながら、すでに前の会社を退職してしまっているなどの理由から、契約の段階で求人と違うと気づいても、断ることができないのが現状です。現在検討されている「厳罰化」が実現すれば、完璧とは言えませんが、就職や転職の幅が広がっていくことでしょう。
ポイント2点
●求人広告に書かれた内容がそのまま労働契約の内容になるとは限らず、詐欺罪にはあたらないが、職業安定法という法律に違反する可能性がある
●厚生労働省は「求人詐欺」を行う企業に対して懲役刑を含む罰則を加えることを検討している