私はブラック企業アナリストとして、普段いろいろな職場の問題点を分析する立場にあるが、今回は見方を逆にして、どんな職場で働くのがいいのか、私なりの考えを示してみたい。夏休みを控えた学生諸君がバイト探しをする際の参考になれば、と思う。
学生生活を充実させる
唐突だが、あなたの学生生活は充実しているだろうか。
「充実なんて余計なお世話だ」と反発する人もいるだろう。どのような人生を送るのも自由だが、多くの人はいずれどこかのタイミングで「就職」することになる。そのためには、就職活動をして内定を勝ち取らなければならない。
企業に自分の価値を理解してもらい、自分の望む職を手に入れる上でどんなことが重要なのか。一言で表すならば、「学生生活が充実していたかどうか」にかかっている、と私は思うのだ。
「充実」には様々な内容が含まれているが、就活における意味合いとしてなら、「経験値が高まった状態」「良好な人間関係を構築維持できる状態」「心身ともに健康に過ごせている状態」といったところではないだろうか。すなわち、生活を充実させるには、さまざまな経験を積んで自分を成長させ、人とコミュニケーションをする力をつけ、体力と精神的な強さを養う必要があるということだ。
それには学校という閉じた世界だけでは足りないように思う。気心の知れた友人としかコミュニケーションを取らないと、実社会に出る上では心もとない印象を受ける。やはり、学生のうちに多少なりとも社会に触れておくべきだろう。
本格的なインターンシップを経験すると確かに実力はつくかもしれないが、そういう機会にアクセスできるかどうかは環境に左右されるため、万人に勧められるわけではない。そこで、だれでもできるアルバイトという社会経験について、「有意義なアルバイト選び」という観点から、理解しておきたいポイントについて話をしよう。
失敗は学生のうちに
まずは、どんな仕事をするのがよいのか、「仕事内容」についてだ。
世の中に存在する仕事には、「人とのコミュニケーションが必要な仕事」と「人とのコミュニケーションが必要でない仕事」の2種類がある。一般的なアルバイトでいえば、前者は、飲食店のホールスタッフやコンビニのレジ係などの接客や販売などで、客と直接やりとりをする。後者は、倉庫内でのピッキング(品出し)作業や、会場設営、引越作業など、客と直接コミュニケーションを取る機会がないか、あったとしてもごくわずかなタイプの仕事である。
どちらが良い悪いではないし、人によって向き不向きもある。が、社会に出たときにどちらの経験がより役に立つか、となると、「圧倒的に前者のほうだ!」と断言できる。
確かに後者は気楽だ。うるさい客からクレームを受けることもなければ、マナーについてとやかく言われることもない。さほどプレッシャーもなく、余裕をもって取り組めるだろう。
前者はその逆で、言葉遣いやマナーに配慮が求められるし、客に失礼があると、バイトも社員も関係なくクレーム事案になってしまう。コミュニケーション力に自信のない人にはつらい環境かもしれない。
しかし、社会人になって初めてヘマを叱られるより、学生バイトのうちに失敗をしてそこからいろいろ学んでおいたほうがいい、という考え方もできる。最初からコミュニケーションに自信のある人などいない。場数を踏む中で、小さな成功体験を積み重ねていくうちに、自信が生まれるのだ。
多少の時給差よりも
2点目。バイト選びでは、お金も大切だ。やりがいや面白さだけで選んでも、働きに見合うだけの収入がなければ、いずれ疲弊してしまう。
もちろん、いくら時給が高くても、ハードワークや厳しいノルマ、過酷なプレッシャーの中では続かない。やはり「時給と内容のバランス」が大切。多少の時給差よりも、「長く続けられる環境」を重視すべきである。
ある就職情報誌のアンケート調査によると、学生の1週間あたりの平均アルバイト時間は「11.8時間」。「1日4時間×週3回」というイメージだろうか。
もっと稼ぎたいと考えた場合、「働く時間を伸ばして、シフトに入る日を増やせばいい」と思うかもしれないが、事はそう単純ではない。アルバイトを雇う側は、「アルバイト1人に仕事が集中する=そのスタッフに依存する」状態を望んではいない。頼りにしたい気持ちがあっても、特定のアルバイトにばかり負担が集中してしまうと、そのスタッフが急に辞めたり、シフトに入れなくなったりした時にリスクを抱えるからだ。
したがって、いくらたくさん働きたくても、働く時間を増やす方向の交渉は難しい可能性がある。そう考えれば、ある程度時給が高く、短時間の仕事でも一定の金額を稼げる仕事が理想的といえよう。
3点目。会社の規模については、小さい会社よりも、より大規模でよりアルバイトの数が多い会社をお勧めしたい。それだけ会社やお店が「アルバイトの扱いに慣れている」可能性が高いからだ。
慣れているとどんないいことがあるのか。
マニュアルが整備され、研修が充実し、スムースに仕事に慣れていける環境が整っている可能性が大きい。会社規模に比例して、アルバイト向けの待遇や制度も充実しているということもあるだろう。また、様々なトラブルを想定した対処法やノウハウが蓄積されていて、戸惑わずに対応できる、といったことも期待できよう。アルバイトの数が多いと、シフトの自由さにもつながる。
要するに大きな会社ほど「働きやすい環境」である可能性が高いということだ。それは必然的に「長く続けられる環境」ともリンクすることになる。
就職に有利なスキルとは
4点目は、就職に有利なバイトとは何か、について。
こんな会社のバイトをやっておけば就活に有利、などという「正解」は存在しない。かりに「採用されただけでも勲章」というようなアルバイト経験があったとしても、それだけで内定を得られる保証はない。ただ、「アルバイト経験を通して、社会で通用するスキルが高まる」ことによって、結果的に「就活に有利になる」、という構図は存在する。
では、その「社会で通用するスキル」とは何か。
重要なものを2つ挙げれば、それは「コミュニケーション能力」と「リーダーシップ」である。社会人にとって必要な基礎力であると同時に、就活においても採否の判断材料として重視されるものだ。
この2つは、パソコンのスキルや語学などと違って、入社後に会得しようとしても難しい資質だ。普段から発揮・活用していることが求められる。就活の面接に至るまでの人生において、場数を踏んで身につけていることが要求されるのである。
コミュニケーション能力を養う上で、接客や販売、営業職のアルバイトは圧倒的に有利といえる。苦手であっても、なにも初めから「うまく話す」必要などないのだ。社員の指示を理解して対応する。多少たどたどしくても、目の前の顧客の要望を丁寧にくみ取り、それに応えられるように行動すればよい。最初は慣れなくとも、半年も現場経験を積めば、必要なレベルのコミュニケーション力は十分身につくだろう。
リーダーシップといっても、「みんな、○○やろうぜ!」というような、率先して周囲を引っ張っていく行動ばかりが求められるわけではない。
たとえば、そんな熱いリーダーに少々「ついていけない......」感覚を抱いている後輩バイトに対して、「リーダーが言っている意図はこうだよ。君もまずは××からやっていけばいいんだから......」という具合に、「メッセージを翻訳して伝える」のもリーダーシップの一種だ。決まった方針に納得いかない風の同僚がいれば、「まあ面倒だけど、できるところからやっていこうぜ!」というように、「背中を軽く押して行動を促す」のもリーダーシップだ。
自分にとってやりやすい方法で、「何かしら物事を前に進めること」ができれば、なんでもリーダーシップなのである。学生時代のうちに、アルバイトを通してそんな経験ができれば、学生生活は充実したものになり、就活など余裕でクリアできることだろう。(新田龍)