企業は、利益追求集団です。従業員の生活を守るために、常に一定の利益を上げなくてなりません。すなわち企業経営者が達成すべき目標を掲げ、その目標達成に向かって皆を努力させるのは当たり前のことです。もし目標すら掲げようとしない経営者がいるとするなら、それは従業員の生活を守ることなど眼中にないことの裏返しであり、そのような経営者は今すぐにでも廃業の道を選ぶべきかもしれません。
超優良支店でつまずいたエリート
目標を掲げた後の課題は、言うまでもなくその目標をいかにして達成させるかです。目標の達成に関して、私は自分自身の経験からひとつの確信をもっています。それは、
「多くのメンバーが『目標を達成する』と思っている組織は目標を達成する確率が高い」
ということです。
私の銀行員時代の話です。本部セクション勤務時の上司Fさんは、とても温厚で部門間調整に長け、かつ部下の評判もよく、その本部での管理手腕を評価されて超優良店の支店長に異動しました。そのS支店は、優良法人が続々進出するような恵まれた環境にあり、約20期(1年が上下2期なので、足掛け10年)連続で総合表彰を受けるような、他にはまず例のない素晴らしい成績を残していました。
出世街道のメインストリームを歩いていると目されるFさんの「猫が支店長をやっても総合表彰が取れる店」への異動は、誰から見ても本部での実績に対する「ご褒美人事」に映りました。
ところが異動から半年後の表彰店発表にS支店の名前はありませんでした。まさかの連続表彰ストップ。周囲から「たまたま運が悪かったんだよ」と慰められていたFさんでしたが、次の期もまた表彰を逃し、約1年という短期間で支店長のイスを追われ、二度と戻ることはありませんでした。
同じようなことがその後もありました。私が副支店長で赴任したK支店は、強面のT支店長のもと、店の雰囲気こそややギスギスしていたものの3期連続で総合表彰を受けていました。赴任直後に各担当者と面談したところ、「とにかく目標達成に対する、T支店長の自信がすごいです。毎期上乗せされる目標にも全く動じることがなく、『絶対に達成するぞ!』という意気込みに引っ張られ、僕らも知らず知らず『個々人の目標は必ず達成するものだ』と思い込むようになり、毎期クリアできています」といった類の声が続々聞かれたのでした。
「私の改善は不要」
ほどなくT支店長は栄転し、交代したY支店長は行内きってのインテリとの評判も高い有名人。周囲の誰もが業績進展を確信しての着任でしたが、Y支店長の綿密な推進戦略に沿って毎期毎期いいところまでは行くものの、表彰には届かずの連続。
一体何が足りないのか。前任のT支店長と比較し、S支店のFさんのことも考え合わせみると、支店のリーダーたる支店長の「目標を絶対に達成する」という強固な信念が、組織内への影響力の観点から何より重要なのではないか、と感じられたのでした。
コンサルタントとして独立後間もない頃、同じようなことが企業の現場でも起きました。とある中堅IT商社の人事制度改訂のお手伝いをした時のことです。
営業部隊の士気向上もみてほしいとの要望を受けて、社長が年度目標を発表した翌日に、営業スタッフ20名を対象として「本年度の目標は達成すると思いますか?」というアンケートを行いました。結果は、YESが9人、NOが11人。つまり、半数以上が目標を示された時点で「達成しない」と思っていたのです。
それもむべなるかなと思ったのは、社長の目標発表があまりにアッサリしたものだったからです。銀行時代の経験から、営業チームの強化には、まず社長自らの意識改革が必要と感じた私は、「まずは社長の目標達成に対する執念を、社員にストレートに伝えましょう」と進言しました。が、社長からは「私の改善は不要。人事制度改訂に専念してくれ」と一蹴されてしまいました。1年後の結果は目標大幅未達でした。
とある人事コンサルティング会社が会社員を対象に実施した「御社が掲げる目標について、あなたは達成できると思いますか?」というアンケートの回答で、YESと答えた人は約35%。さらにその理由をたずねると、最も多い約60%の人が「目標達成に対するトップの意思が強固であるから」と答えたのです。逆に「達成できると思わない」と答えた人は、その理由について「そもそも経営陣すら、何が何でも目標達成しようと思っていないようだから」が最多の回答となりました。やはり、トップの目標達成意欲と目標達成確率は完全リンクしていると痛感させられるところです。
これらの経験から私が導き出した結論は、
「目標達成を信じて疑わないリーダーのもとでは、メンバーは組織の目標達成を信じ、組織は目標を達成する」
です。
私が営業チームの強化の依頼をいただいた折には、まず社長にこの点をじっくりと説明し、社長の目標達成意欲をストレートにしつこく社員に伝えてもらうようにお願いします。それが着実な成果改善につながるのです。
営業成績不振でお悩みの社長さん方のヒントになれば幸いです。(大関暁夫)