文系は安易に大学院へ逃げ込めない 覚悟を要するこれだけの理由

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   2017年卒の就職戦線も春採用は一段落。これから敗者復活戦とでもいうべき、夏・秋・冬採用が進んでいきます。その話は次回にするとして、春採用の前でも後でも変わらず就活にポジティブな思いをもてない学生がいます。それは、文系の大学院生です。

   というわけで、今回のテーマは「文系の大学院生」です。

情報誌にも特集記事がない

文系院卒もポジティブな気持ちで
文系院卒もポジティブな気持ちで

   例によって、就活の歴史の基本文献、「就職ジャーナル」誌をひっくり返してみましたが、なんと文系大学院生対象の特集は皆無。それくらい、マイナーな扱いでしかありませんでした。

   Q&A集などにところどころ出てはきますが、ネガティブな扱いでしかありません。2007年8・9月号「人事が予言!『今年はあきらめ組』の1年後」では、「大学院に行ったほうが就職活動でも有利なんじゃないかな?」という学生側の質問に対して、ネガティブなコメントがズラリ。

「昔は『院生イコールレベルが高い』というイメージがありましたが、今はとりあえず院に進む学生が増えている気がします。ほかの学生よりも2年多く親のスネをかじって勉強しているわけですから、むしろ要求するレベルは高くなりますね」(メーカー)
「『大学院卒業』という1行の経歴はまったく重視していません」(広告)
「就職のためだけに進学しようとしているなら、考え直したほうがいいと思いますよ」(金融)

   また、「院卒のほうが将来性もあって、入社してからも昇進しやすいんじゃないかな?」に対しては、

「大いなる勘違いですね。今は企業も学歴だけを見て昇進させるような余裕はないんですよ」(メーカー)
「会社に入って早く昇進したいと思うなら、やはり年齢的に若いうちに就職して、スキルを高めていったほうがいいんじゃないでしょうか」(金融)

学部卒より勝っているか

   2010年刊行とやや古いですが、『大学院生、ポストドクターのための就職活動マニュアル』(アカリク著、亜紀書房)は、文系院生向けのマニュアル本です(理工系院生についても記載あり)。

   著者は大学院生・ポストドクターの就職支援事業を展開しているベンチャー企業。冒頭では、大学院生のネガティブな話にもあえて触れています。

   「世間の一部の人は、大学院生に対しえマイナスイメージを持っていることがあります。具体的に挙げると、『頭はいいけれど腰が重くて行動力がない』、『研究以外には興味がない』、『やりたいことしかしない、マイペース』、『何の役に立つのかわからない研究をしていて、理解できない』、『学部生に比べておとなしい人』というものです」

   さらに、大学院生・ポストドクターの就活のハードルとして3つのことを挙げています。

   「時間がない」(研究で忙しい)、「大学院生の就職に関する情報が少ない」、「就職活動をしながら試行錯誤するチャンスがない」。

   文系修士については、就活のポイントとして、次の4点で学部卒より勝っている必要がある、としています。

「入社後の成長が見込まれる」
「学部生にはできないことができる予感がする」
「学部卒の社員より教育の手間がかからない予感がする」
「今いる社員に負けないモチベーションや行動力を持っている」

   なかなか高いハードルです。

   大学入試での難関校、有名大学の大学院なら話は違うだろうと思うかもしれませんが、どうでしょうか。

   2014年刊行の『人文・社会科学系大学院生のキャリアを切り拓く:〈研究と就職〉をつなぐ実践』(佐藤裕・三浦美樹・青木深・一橋大学学生支援センター編著、大月書店)では、一橋大の事例を中心に大学院生の就活事情をまとめています。同書は、

   「人文・社会科学系の修士課程修了者の就職状況は、理学・工学の修士課程修了者、人文・社会科学の学部卒業者と比べて厳しいといえます」

   と率直に述べ、属性以外の問題として、大学院の環境(研究と就活の同時並行、大学教員志望者などが多く情報への疎さからの出遅れ)、専攻・研究テーマと就職の関連(研究テーマが批判的か無関係だった場合に不利と思い込む、自身の専門性を活かそうとする、企業活動に問題意識がある場合に企業を選びにくい)、それから採用側の評価(学部生とは異なる基準で評価)を挙げています。

   もっとバッサリ斬っているのが、『日本労務学会誌』2015年16号に掲載された「大学院卒の就職プレミアム 初職獲得における大学院学歴の効果」(平尾智隆・梅崎修・田澤実)という研究論文です。細かい測定方法などを飛ばすと、

   「初職の獲得における優位性は、理系大学院>理系大学・文系大学>文系大学院という順番になる。(中略)本研究の主要な結果は、(文系大学と比較した場合)理系大学院に就職プレミアムがあり、文系大学院のそれは負であるという、ある意味ショッキングなものである」

と書かれています。

   ただし、同論文では、調査の限界(ネットのモニター調査)を認めていますし、文系の場合だと、就活に失敗して仕方なく大学院、という消極的な理由による進学者が理工系よりも多いと推定されます。そうした入学時点での志向の違い、あるいは就活量・モチベーションの差なども含めた研究が待たれます。

2年かけて得たものがあるか

   ところで、先ほどご紹介した『人文・社会科学系大学院生のキャリアを切り拓く:〈研究と就職〉をつなぐ実践』は、専門書ではありますが、エントリーシートの書き方などをまとめたマニュアル本的要素も含まれています。

   院生にありがちな書き方の例を紹介したうえで改善例を示しています。例えば研究テーマを示すときは、

   「専門外の人も理解できるよう、明確かつシンプルにポイントを整理しておきましょう。『専門が近しい人以外にはなかなか理解されないだろう』と思い込まずに、『自分の専門分野についてまったく知らない人の興味をそそるにはどのように伝えたらよいか』を重視してください」

と、きわめて具体的です。

   私が企業の採用担当者に聞いて回ると、文系大学院卒だからといって特に不利な扱いにすることはない、とのことでした。ただし、年齢を気にする企業はあります。

   「大学院生だから落とす、というわけではありません。ただ、2歳上でも学部卒と給料は同じです。その扱いで不満を持たないかどうか。それと、大学院に2年行ったことが、単なる逃げなのか、それとも得たものがあるのか、そこはきちんと聞きたいですね」

   文系大学院生でも、わざわざ自分から不利と思い込まなくてもいいような気が、私はします。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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