人は、社会に出てからも、さまざまな変化を経験します。就職、結婚、管理職への昇進、他企業への転職、定年退職......。あるいは、健康を損ねたり、長い休職からの復帰という変化を経なければならないこともあります。そのつど人間関係、仕事の内容、通勤環境などの変化に見舞われ、戸惑うものです。
メンタルヘルスの研究では、このような変化の後の6か月を「ハイリスク期間」と呼んでいます。この期間に体や心の調子を崩す人が少なくありません。メンタル不全状態になる方が多いのです。なぜかというと、「変化への適応」は、大きなストレスを伴うからです。
「荒海に適応せよ」
ストレス学の父、ハンス・セリエ博士の実家の家訓は、
「世の中の荒海にうまく適応せよ」
であったそうです。ストレスの病は、ある意味「適応の病」(セリエ博士)でもあるのです。
たとえば、期待に胸を膨らませて新しい部署に異動したとしましょう。しかし、異動した後の現実が自分の想像していたのと違っていることも、ままあります。ここで、がっくりして鬱々としていると、ストレスは倍増します。こうした適応障害を「現実ショック」といいます。
また、今まで営業職でトップの成績を達成し、認められてマネジャーになったような「できる」課長が、しばしば昇進後に「うつ状態」になってしまいます。これは「昇進うつ病」と呼ばれます。
会社に認められ昇進するような人ですから、もともと仕事がよくできて、タフな人が多いのです。そういうタフガイがなぜうつになってしまうのでしょうか。理由は、2つあります。
1つは「仕事の質の変化」です。営業の仕事がいかに得意だとしても、課長になると、自分が頑張るのではなく、部下に頑張ってもらうスキルが必要とされます。つまりリーダーシップが求められるのです。
もう1つは、仕事に「頑張りすぎること」です。とくに新しい職場では、速く適応しなければならない、と焦るあまり、よけい仕事にのめりこみます。この焦燥感が心の中に大きなストレスを生み出します。
技術革新や社会の動きによっても、人は新たな「変化」に直面します。
たとえば、AIやクラウドなどの技術が導入されるなど、どの企業でもICT化がいっそう進んでいます。世の中の変化への適応を求められているのは、個人ばかりでなく、企業も同様です。「素早く、変化に対応していく時代です」。
それで、業種によっては過去の経験が役に立たず、自分よりも若い人に教えを乞う必要が出てきます。ここでも変化にストレスが伴います。適応の病が生じる余地があります。
また、育休、介護、メンタル不全などなど、さまざまな理由で休職に入る人も増加しています。そういう人たちがスムーズな職場復帰を遂げるためには、ストレスに対するケアが求められます。新しいタイプの変化には、新しい適応のかたちが模索されなければならないということでしょう。