業績ジリ貧招いた後継社長の勘違い 「たとえ死すとも無借金経営」

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「いまさら借金なんて」

   酒席でT社長の愚痴を聞かされた私が「リーマンショック後の失地回復に向け、何を仕掛け、そのために取引銀行にどのような協力を求めたのか」と尋ねてみると、案の定こんな答えが返ってきました。

「銀行からの借入? それはない。父が築いてくれた無借金経営を守ることが第一だから。ましてや赤字の時に銀行から借金なんて、到底できないよ」

   銀行はたとえ赤字であろうとも、内部留保という経営基盤がしっかりしていて、計画的な投資で業績回復を図ろうとするなら協力を惜しみません。それが銀行の社会的使命でもあるのですが、T社長は完全に投資というものを誤解し、借入をしないのが良いことなのだとの信念のもとに会社経営を続け、ジリ貧を余儀なくされてきたのです。

   T社長の父親も、恐らく会社を大きく育てた昭和の成長期とは違い、後継への継承を見据えて無借金経営に戻した頃には、80歳を目前にして投資意欲が減退していたのでしょう。その姿を間近で見ていた後継が、「投資=借金」のない状態が良い状態であると信じ込んだとしても何の不思議もありません。

   トップが自らの投資意欲に衰えを感じる時期が後継への譲り時とするなら、M社の事業承継は、やはり機を逸していたということになるでしょう。

   さてT社長。すでに廃業をも視野に入れているような口ぶりでしたが、上に述べたような話をし、「胸に秘めたる起死回生策がもしあるのなら、思い切って取引銀行に相談したらどうか」と私はアドバイスしました。たとえ創業者であれ、親から引き継いだ二代目、三代目であれ、プライドある一人の経営者として、社会的存在である企業をそんなに簡単に消滅させて欲しくないからです。

   中小零細企業であろうとも、経営者としてのプライドをもって経営の指揮を執ること、それが「中小企業、2030年消滅」とならないために一番大切なことかもしれません。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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