今、空前の「田中角栄ブーム」が巻き起こっているという。関連書籍が続々と出版され、ベストセラーランキング上位にも顔を出すほどの勢いだ。
豪快で実行力があり、人望が厚かった故田中元首相の人間的な魅力が改めて多くの人を引きつけているということなのだろう。が、他面、その利益誘導型の政治が厳しく批判されたり、「ロッキード事件」で収賄の罪に問われたりした「金まみれ」のイメージは、歴史の後景に退いてしまったかのようだ。清濁併せ飲むがごとき器量に見合うように、ネットには「角栄再評価」の熱狂に水を差す声も少なくない。
トップ10中7点が
Amazon.co.jpの「本・政治家」カテゴリーの売れ筋ランキングで、トップ10中7点を「角栄本」が占めている(2016年6月14日現在)。
激戦を制し1位に輝いているのが、宝島社の『田中角栄100の言葉 日本人に贈る人生と仕事の心得』(2015年1月24日発売)だ。圧倒的なリーダーシップ、マネジメント力、決断力を発揮した元首相の、人生に役立つ言葉を紹介し、発行部数は50万部を突破している(16年4月21日時点)。
宝島社は、「角栄再評価」のムーブメントについて、政治不信やリーダーシップ不足への不満がまん延している日本の現状を背景に、「酒、女、カネ、そして、政治力と今では考えられない豪快さ」「利益誘導型の政治と批判はされながらも、『人間の暮らしを楽にする』という政治の原点は最後まで変わりませんでした」といった点が多くの人を惹き付けている、としている(同社プレスリリースより)。
田中角栄の生涯を一人称で綴った、石原慎太郎氏の『天才』(16年1月22日発売)も多くの読者を得ている。
丸善、ジュンク堂書店、文教堂と、ネットストア「honto.jp」で購入された書籍や電子書籍の販売データをもとに集計した「honto月間ランキング」では、発売翌月の2月に1位を獲得したのを皮切りに、4か月連続でトップ10入りを果たしている。
石原氏はゲスト出演した「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系、16年6月5日放送)で、田中元首相が高速道路や新幹線、テレビの普及の種をまいたことに触れ、「文明に関する予感力が抜群だった」と評した。
子どもさえ知る列島改造
田中角栄ブームはインターネット、SNSにも越境し、さまざまなコメントが書き込まれている。
お笑い芸人の水道橋博士さんは、羽田空港に向かう車中で小学2年生の末っ子から「うわ~ドライブ楽しい。でもこの高速道路も列島改造した田中角栄のおかげだからねー」と言われたとツイッターで報告(16年6月12日)。どうやら子どもたちにも元首相の名前と業績が語り伝えられているようだ。
ブームに異議を唱えるのは、評論家の古谷経衡氏。
ほかにも異論が。田中角栄ブームなるものに違和感。田中の利益誘導政治は日本の地方の自立を阻害し、かえって地方を衰微させた。日中国交正常化も、1970年のカナダ中国承認と欧州主要国の承認やニクソンショック(訪中)、そして中ソ対立を原因とした中国側からの接近。何かすごい政治家なのか、理解に苦しむ。
— 古谷経衡@ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったか (@aniotahosyu) 2016年5月31日
「田中角栄ブームだぁ?!んなもんただのキャラクター人気だろう、戦国武将と同じで格好いいとこピックアップされてるだけさ」
「いま田中角栄ブームというのはちょっとわからんなあ。懐古ブーム的に豪腕でカリスマがあった点を賞賛するばかりで、負の面にあんまり言及してない気がするのよね。今まで負の面ばかり喧伝してきた反動なのかもしれないけど...」
田中角栄元首相は1993年12月、75歳で死去した。インターネットの爆発的な普及は没後のことである。(MM)