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会社が苦しいときは社長だって

   リーマンショック後に業績が急激に悪化し、賞与支給を取りやめた製造業のオーナー企業C社で、社員が反乱を起こしました。「会社が苦しいのは分かるが、平均給与がよそより低い当社では賞与も生活給であり、ゼロ回答では生活ができない。せめて一律5万円でも10万円でも、一時金支給をお願いしたい」と、社員が団結して社長に直訴しました。

   その交渉の際、一部の幹部社員がぶつけてきた本音に、社長は言葉を失いました。

「社長はいいですよ。高い給与に加えて、車は会社名義で買って、ガソリン代もタダ。食事代だとか宿泊費だってけっこう経費で出しているじゃないですか。僕らにはそういうプラスアルファがないのですから、賞与がないとやっていけないのです。分かってください」

   後日、この一件を振り返りながらC社社長はこう話しました。

「本来なら『無断で会社の帳簿をのぞき見してそんなことを言うのは言語道断!』と怒ってしかるべきところなのですが、指摘されたことは事実でしたし、自分にも多少の後ろめたさもあり、ここでキレたら社員との信頼関係を失ってしまうと思い、反論ができませんでした」

   何よりもショックだったのは、「会社がもうかっているときは、社長が何をしようと文句を言うつもりはない。でも苦しい時は、僕らも一緒にがんばって稼いだ会社のお金を、社長だけが私的なことに使うのはちょっと違う気がする」という一言だったのだと。

「あの一言で私は目が覚め、社員に一律10万円を支給し、私の給与を下げました」

   この一件を通じC社社長は、社員の視線と目線を意識することの大切さを学んだといいます。

「社員は社長自身が思っている以上に、社長のことをよく見ているのです。社員から一挙手一投足を監視されている、と言っても過言ではない。これが社員の視線を意識するということです。そして自分が社員だったら社長の行動をどう思うか、と常に社員の立場で考えるのを忘れないこと。これが社員の目線を意識することです。この一件を境に社員との一体感が強くなりました。あのまま賞与ゼロ回答で突っぱねて、私が自分勝手を続けていたら当社はつぶれていたでしょうね」
大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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