今回のテーマは「人生の選択」です。
6月の選考解禁から、大手企業の内定出し(厳密には内々定出し)が続出しています。内定を取れた学生はいいのですが、一つも取れない学生はこれからどうしようか、と頭を抱えているところではないですか。彼らには今後、どんな選択があり得るのでしょうか。
評価が割れる再アタック
考えられる選択肢としては、留年して来年の就活期を待つ「就職留年」、大学を卒業して再挑戦する「就職浪人」、「大学院進学」、「卒業してフリーター・世界放浪など」、あきらめずに「就活を継続」の5つ。それぞれを検討していくことにしましょう。
まず、就職留年と就職浪人ですが、その検討に入る前に考慮しておくべきことがあります。それは、「第一志望企業への再アタックはありか、なしか」という問題です。袖にされた第一志望に来年もう一度トライしてみる価値はあるのか。
企業の採用担当者に聞くと、再アタックについては、「うちは歓迎だし、それで内定を出したこともある」という社と、「来ても無条件で落とす」という社に分かれました。歓迎派は、
「落ちた原因を分析して、そのうえでさらに就職留年という行動を起こしている。入りたいという熱意もあることだし、改めてわが社に合うようなら内定を出すことも」
といいます。一方、門前払い派は、
「一度、適性がないと判断した学生を、就職留年したから優遇するということはあり得ない」
と冷ややか。さらに、中間派としてこんな意見を出す採用担当者もいました。
「どの選考段階で落ちたかにもよるでしょうね。序盤の選考で落とされたのなら、エントリーシートの書き方がまずかった、面接慣れしていなかった、など就活のモチベーションに左右された可能性があります。一方、最終面接など終盤の選考での不合格だと、社長や役員など幹部が判断しての結果です。その判断を覆すにはよほどの説得材料がないと」
確かに。一般的に、選考の序盤では学生が選考基準に合うか合わないかが判断されます。それが終盤になると、選考基準をクリアした学生ばかりとなり、今度はその社に合うかどうかが判断され採否が決まります。
つまり終盤の選考では、優秀な学生でも「うちには合わない」と判断され落とされることが十分ありえます。たとえ1年かけてもそれを覆すのは大変そう。
というわけで、第一志望企業で落とされたのが選考の序盤ならまだしも、終盤であれば、そもそも向いていなかった、ということであきらめたほうがよさそうです。
なぜ売り手市場に背を向ける
そうした再アタックの可能性を踏まえ、1番目の就職留年と2番目の就職浪人をまとめて考えてみましょう。来年再び就活に挑戦する点では同じ、大学に籍を残す、残さないが違うだけで、あとは変わりません。大半の企業は、卒業後3年以内であれば新卒扱いにします。
まず、再アタックを受ける第一志望企業でなくても、なぜ、わざわざ就職留年・浪人を選択したのか、という疑問はどの企業側にも生じてしまいます。
2017年卒は、近年になく選考基準が緩いと言われるほど、学生有利の売り手市場。その恵まれた状況でわざわざ就活留年・浪人を選択するのは、よほど就活にまじめに取り組んでいなかったか、あるいは就活以前の問題なのか、と疑われかねません。
来年の18年卒の採用も、今のところ売り手市場が続く、と言われてはいますが、それはあくまでも現状での見込み。現実にどうなるかはわかりません。就職留年・浪人をしたから有利になる、という確かなメリットもなく、先行きどうなるか分からないというデメリットもあります。
そう考えると、就職留年・浪人はお勧めできません。
卒業して世界放浪やフリーターをしてから就活に戻る、という考え方も留年・浪人と同様、あまりお勧めできません。
出版やデザインなどのクリエイティブな仕事であれば、世界放浪などはプラスに働くことがあるかもしれません。あるいは、看護師など、帰国してからすぐにでも就職可能な国家資格を持っている場合も問題ないでしょう。
フリーターとして働くのでも、フリーターから正規雇用への道が開かれている飲食・流通などの仕事であればそれもありかもしれません。しかし、まったく無関係の業界・企業に就職しようとした場合、「なぜ20代前半という大切な時期をフリーターで過ごしたのか。そもそも経験した職場は人材育成の教育投資がゼロに近く、社会人としての基礎がなっていないのではないか」と、疑問をもたれてしまいます。
正規雇用の場合、多くの企業では新入社員研修を実施します。挨拶のしかたなど基礎的なものから、社内レポートの書き方などまで。バカらしいという意見もなくはありません。しかし、長い目で見れば、社会人の基礎を固めるのは重要なことです。
フリーターにはそれがありません。いくら「新卒3年以内は新卒扱い」と言っても、フリーターというだけで敬遠されるのは、そういった事情があるからです。
この選択肢の一択だろう
では、大学院進学という選択はどうでしょうか。技術職・研究職採用の多い理工系はさておくとして、ここでは文系に絞って。
文系の場合、就活がダメだった時の緊急避難先として、1990年代後半から大学院に進学する学生が微増を続けています。本気で勉強に打ち込む学生もいます。90年代までは、そもそも大学院進学者が少なかったこともあり、企業は文系の大学院生というだけで敬遠材料にしていましたが、最近はそれほどでもありません。ただ、年齢から採用を躊躇する企業はあります。
「大学院卒だからといって大卒よりも高い給料は出せませんし、そもそも院卒に対応した給料体系を作っていません。作る気もないですし。それで満足してくれるのかといえば、やはり難しいのでは」
「給料体系は、能力と年齢に応じています。つまり、大学院修了者はスタート時に大卒と同じであっても、翌年以降、大卒よりも給料が高くなってしまいます。それに見合った働きを期待できるかどうか、という見極めになりますね」
と企業により見方はさまざま。中には、文系の大学院修了者を評価する企業もあります。
「下手な大卒よりも勉強熱心で、基礎能力が高い。優遇する、とまでは言わないけど、採用はしたい」
なお、学生が想像している以上に、大学院生は就活と勉強の両立が大変です。それを覚悟した上でなら大学院進学はありではないでしょうか。もちろん、それで第一志望の企業への再アタックが成功するかは別問題ですが。
というわけで、残った選択肢は「就活を継続」。就活に失敗した学生の多くには、この選択肢の一択ではないでしょうか。あまり迷いようがありません。
今年は売り手市場でありながら、準大手・中堅がむしろ7月以降に内定出し(大手は6月)という、ねじれ現象を起こしています。内定辞退や夏・秋以降の採用は8月以降に本格化します。
第一志望の企業にこだわるかどうかはさておき、そこまで就活を続ければ、第一志望とは別の、いい企業に出会えるはずです。(石渡嶺司)